交通事故の人的損害に対する損害賠償金の算定方法と交渉のコツ

交通事故の人的損害に対する損害賠償金の算定方法と交渉のコツ

はじめに

交通事故の人的損害に対する損害賠償金の概要

交通事故に遭った際、被害者は加害者の法律上の損害賠償責任に対して、賠償請求を行うことができます。この損害賠償を行う権利は、民法709条(不法行為による損害賠償)に定められています。交通事故の人的損害に対する損害賠償金とは、被害者の身体的・精神的損害、経済的損失などを補償するために支払われる金銭のことをいいます。

損害賠償金の算定と交渉の重要性

適正な損害賠償金を受け取るためには、損害を適正に算定することと、効果的な交渉が欠かせません。また、損害賠償金の費目と算定方法を理解し、交渉のコツを身につけることで、被害者の権利を守ることができます。

損害賠償金の費目と算定方法

お金と車

算定方法における基準の違い(自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準)

自賠責保険基準は、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める金額が支払われ、交通事故に遭った被害者が基本的な補償を受けることができるようになっています。

任意保険基準は、保険会社が独自に定めた基準のことを指します。自賠責保険基準と比較すると高めに設定されていますが、過失相殺が適用されるケースがありますので注意が必要です。

弁護士基準は、弁護士や裁判所が損害賠償金を算定する際に用いる基準で、これまでの交通事故の裁判の判例から設定されています。こちらも過失相殺が適用されるケースがありますので注意が必要です。なお、弁護士基準は3つの基準の中で最も高い水準で設定されています。

治療費

交通事故によるケガの治療に必要な治療費は、損害賠償金の対象となり、治療費、入院費、薬代などが含まれます。治療費は、医療機関が発行する診断書・診療報酬明細書に基づいて算定され、健康保険を使用した場合は、自己負担分のみが損害賠償金の対象となります(自己負担分以外の金額は、後日健康保険組合等が加害者に請求を行います)。

通勤途中に事故に遭った場合には、勤務先の了解を得たうえで、労災保険を使用することもできます。
その他に、治療にまつわる関係費用として、通院費、看護料、入院諸雑費、義肢・装具代(義肢、眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器、松葉杖などの制作費用)などがあります。

カレンダー

休業損害

交通事故により仕事を休まざるを得なかった場合、その間の収入に関する損失を休業損害として、必要かつ妥当な範囲で請求できます。

会社員の場合は、欠勤期間に対して事故前の給与相当額を基準として支払われます。休業損害の請求を行う場合には、会社が証明する休業損害証明書や源泉徴収票等が必要となります。

家事従事者の場合は、治療期間・日数、影響度合いが基準となります。家事従事者とは、家族のために家庭で料理や洗濯などの家事労働に従事する人のことであり、性別や年齢に関係なく、主婦・主夫などを指し、住民票や家族構成表等により家事従事者であることを証明することとなります。

自営業者の場合は事故の前年の確定申告書や所得証明書などの資料を提出することとなります。
なお、被害者が、各種資料により事故前の収入や休業したことを証明する必要があります

入通院慰謝料

交通事故により医療機関への入院や通院を強いられたことによって生じる精神的損害に対して支払われます。自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準のそれぞれの基準によって算定方法と金額は異なります。自賠責保険基準は、1日あたりの日額✕日数で算出されます。日数は実治療日数の2倍を基本としますが、総治療日数が限度となります。

任意保険基準は、入通院の期間・日数に基づいて金額が算定されますが、受傷の部位・程度によって調整される場合があります。
弁護士基準は、これまでの交通事故の裁判の判例から設定されています。金額としては、自賠責保険基準、任意保険基準より高め設定されています。

後遺障害逸失利益

交通事故により後遺障害が残ったことで働けなくなった場合に、将来得られたはずの収入を現在価値に換算して算定されます。被害者の年齢、職業、事故の前の収入、障害の程度、家族構成などを考慮して算定されます。

後遺障害慰謝料

交通事故により後遺障害が残った場合、後遺障害等級表に基づいて金額が算定されます。後遺障害は、障害の程度が一番重い1級から比較的軽いとされている14級まで細分化されており、認定された等級によって支払われる金額が変わります。

後遺障害等級を確定させるには、医師が作成する後遺障害診断書や医療機関が保管しているレントゲン・MRI等の画像データを保険会社に提出し、後遺障害認定審査を受ける必要があります。

将来の介護料

後遺障害が残り、常時介護あるいは随時介護が必要と認められた場合には、将来の介護料が支払われます。受け入れ先(施設・自宅)と担い手(家族・職業付添人)、障害の程度、被害者の年齢などにより支払われる金額が変わります。
将来の介護料は、一時金・定期金のいずれかの方法で支払われ、一時金の場合、現在価値に換算して算定されます。

死亡逸失利益

交通事故により死亡した場合には、将来得られたはずの収入を現在価値に換算して算定されます。被害者の年齢、職業、事故の前の収入、障害の程度、家族構成などを考慮して算定されます。

死亡慰謝料

交通事故により被害者が死亡した場合、死亡に至らしめられた精神的損害に対して支払われる被害者本人への慰謝料と、近親者を亡くした精神的損害に対して支払われる被害者遺族への慰謝料があります。

被害者の年齢・性別・職業・家庭生活に及ぼす影響等を考慮して算定されます。入通院慰謝料と同様に、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準のそれぞれの基準によって算定方法と金額は異なります。

葬儀費用

交通事故により死亡した場合、葬儀に要した費用も損害賠償金として支払われます。葬儀に要した実費を領収書などの資料により証明することで、社会通念上、必要かつ妥当な実費が支払われます。

過失割合と損害賠償金の関係

交通事故現場

過失割合の決定方法

交通事故の過失割合は、事故の発生状況や当事者の動きなどを総合的に判断していきます。裁判所・弁護士・保険会社は、「別冊判例タイムズ(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)」を参考として過失割合を決定していきます。警察が作成する実況見分調書を参考とすることもありますが、民事不介入の原則により警察が過失割合を決定することはありませんので注意が必要です。

なお、過失割合の主張は、事実に基づいて行う必要があります。道路交通法の定めに則って信号や道路標識による規制、法定速度などを遵守しているかが重要なポイントになります。

過失割合と損害賠償金の計算

損害賠償金は、被害者の損害額に過失割合を乗じて算定されます。例えば、被害者の損害額が100万円で、被害者の過失割合が20%の場合、損害賠償金は80万円となります。損害賠償金には医療機関等へ支払われる治療費等も含まれますので、実際に被害者が受け取る金額と異なる場合もあります。

過失割合の交渉における重要性

過失割合は、損害賠償金の額に直接影響するため、交渉において非常に重要な要素となります。適正な過失割合を主張するために、事故発生状況を記録として残しておく必要があり、ドライブレコーダー等の客観的な資料を提出することで交渉をスムーズに進めることができます。

交渉のコツ

事前準備の重要性

交渉に臨む前に、損害額の算定や事故発生状況の説明資料などを準備することが重要です。相手方の主張を予想し、反論の準備をしておくことも必要となります。また、立て替えを行った費用がある場合には、領収書等を事前に整理しておき、すぐに提出できるようにしておくことが大切になります。

交渉の基本姿勢

交渉では冷静さを保ち、感情的にならないようにして交渉相手の主張にも耳を傾け、歩み寄りの姿勢を示すことで、交渉をスムーズに進めることができます。感情的になったとしても、何も良いことはありませんので、注意が必要となります。

根拠資料の活用

損害の算定根拠や過失割合の主張を裏付けるドライブレコーダーの映像等など、客観的資料を提示することで適正な解決を図ることができます。ドライブレコーダーの映像は、データが上書きされてしまうことがありますので、すぐに確認を行い、確実に保存することが必要となります。

弁護士の活用

交渉が難航する場合や、法的な判断が必要な場合は、弁護士に相談することをお勧めします。弁護士の専門的知識と交渉スキルを活かすことで、適性に解決することができます。また、複雑な交渉を弁護士が行うことで、被害者のストレスを軽減させることもできます。

示談書の作成と確認

交渉が成立した場合は、示談書を作成し、内容を十分に確認することが重要です。示談書には、損害賠償金の額、支払方法、今後の紛争防止などについて明記します。基本的に示談が成立すると事後の請求は認められませんが、例えば、示談の時点で後遺障害の請求を行っていない場合に、「後日本件事故により後遺障害が発生した場合には別途協議する」との文言を入れておくと、後遺障害に限り事後の請求を行うことができるようになります。

交渉上の留意点

時効の管理

損害賠償請求権には時効があります。時効期限を過ぎると、請求権が消滅するため、注意が必要です。民法の定めによる事故は請求内容によって3年、5年、20年と請求権が消滅する時効期限が異なります。また、自賠責保険への請求権が3年となっています。時効について間違いのない対応を行うためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

過失割合の見極め

過失割合の主張は、事実に基づいて行う必要があります。事故発生状況を客観的に分析し、適正な過失割合を見極めることが求められます。基本的には道路交通法の定めに則って検討を行う必要があり、信号や道路標識による規制、速度などを遵守しているかが重要なポイントになります。

後遺障害等級の確定

後遺障害慰謝料の算定には、後遺障害等級の確定が必要です。医師の診断と後遺障害認定審査を受けることが必要となります。ただし、後遺障害認定審査を受けたら必ず認定されるということではありませんので、注意が必要です。審査を受ける前に主治医とよく相談する必要があります。

まとめ

損害賠償金の適正な算定

適正な損害賠償金を受け取るためには、損害を適正に算定することが重要になります。交渉に必要な情報を収集し、算定根拠を明確に提示して交渉を進めることにより適正な賠償を実現することができます。

交渉スキルの向上

損害賠償金の交渉においては、交渉スキルが結果に対して大きく影響します。交渉のコツを身につけ、説得力のある主張を行うことが重要となります。

専門家の活用の重要性

損害賠償金の算定や交渉が複雑な場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家の知識と交渉スキルを活かすことで、適正な解決を実現することができます。また、被害者のストレス軽減にも繋がりますので、積極的な活用を検討していきましょう。

適正な損害賠償金を受け取ることは交通事故の被害者の権利です。損害賠償金の算定方法を理解し、交渉のコツを身につけることで、その権利を守ることができます。そのために、事前準備、根拠資料の活用、弁護士の活用がカギとなります。
今後、読者の皆さまが交通事故に遭われたときには、適正な解決を図るために、積極的に専門家の活用を検討していただければ幸いです。

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