高次脳機能障害の異議申し立て成功例

高次脳機能障害の異議申し立て成功例|非該当から等級獲得へ

監修 石田 大輔 (いしだ だいすけ)

名城法律事務所サテライトオフィス 代表

所属 / 愛知県弁護士会 (登録番号42317)

保有資格 / 弁護士

「非該当」は終わりではない――異議申し立てという選択肢

自賠責保険の後遺障害審査で「非該当」という結果を受け取ったとき、多くの被害者・家族が「もう終わりだ」と感じます。しかし、それは正確ではありません。

後遺障害の認定結果に納得できない場合、被害者には異議申し立て(再審査請求)という手続きが認められています。そして高次脳機能障害に限れば、適切な追加証拠を揃えて再申請することで、非該当から等級認定へ逆転するケースは決して珍しくありません。

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一度の審査で非該当になる理由の多くは、「症状がなかったから」ではなく、「症状を証明する証拠が不十分だったから」です。これは裏を返せば、証拠を補強すれば結果を変えられる可能性があるということです。

なぜ一度目の審査で非該当になるのか――失敗の4パターン

異議申し立てを成功させるには、まず「なぜ非該当になったか」を正確に分析することが出発点です。原因を特定せずに再申請しても、同じ結果になるだけです。

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パターン①:画像所見の不備

最も多い原因です。びまん性軸索損傷は通常のCT・MRIでは検出できないことがあります。「画像に異常なし」が「脳損傷の証拠なし」と読まれてしまうケースです。

→ 対策:DTI・MRスペクトロスコピー・脳血流SPECTなど先進画像検査を追加

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パターン②:神経心理学的検査の未実施・不足

「記憶力低下あり」と書かれていても、検査値による裏付けがなければ審査官は判断できません。

→ 対策:WAIS・TMT・PASTなどを実施し、専門医意見書とセットで提出

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パターン③:日常生活への影響が十分に伝わっていない

「仕事でミスが増えた」という抽象的な記載しかなく、具体的な影響が審査官に届いていなかったケースです。

→ 対策:日常生活状況報告書を具体的エピソード形式で書き直し、多方面の証言を追加

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パターン④:因果関係の立証が弱い

「事故で頭を打った」という事実と「現在の認知機能障害」の間の因果関係が医学的に繋がっていなかったケースです。

→ 対策:受傷機転の証拠と専門医による因果関係意見書を組み合わせる

【事例分析①】DTI追加で7級4号を獲得したケース

CASE 01
非該当 → 高次脳機能障害 7級4号認定

対象者

50代男性・会社管理職

事故状況

高速道路上での追突事故

初回審査結果

非該当

主な症状

物忘れ・感情不安定・業務ミス

非該当の原因分析

①通常MRIのみで高感度画像検査なし ②後遺障害診断書に「軽度の記憶力低下あり」とだけ記載(検査値なし) ③日常生活状況報告書が「仕事でミスが増えた」という一文のみ

異議申し立てで追加した証拠

DTI検査の実施

両側の脳梁膨大部および放線冠に FA値の有意な低下を検出。通常MRIでは映らなかったびまん性軸索損傷の痕跡として機能しました。

脳神経外科専門医の意見書

DTI所見と受傷機転を総合評価。「本件事故によるびまん性軸索損傷と、それによる遂行機能障害・記憶障害が生じたと医学的に合理的に推定される」と記載。

神経心理学的検査の実施

WAIS-IVでワーキングメモリ指数76(境界域)、処理速度指数72(低水準)。TMT-Bで著明な遂行時間の延長を確認。事故前の職務と照らし合わせて報告書に明記。

日常生活状況報告書の全面書き直し

弁護士と共同で12件の具体的エピソードを日時付きで記録。「2024年10月3日、部門会議で議事録の取り方を忘れ、20年来の部下から指示を仰いだ」等。

✅ 異議申し立て結果

高次脳機能障害として7級4号を認定

逆転のポイント:「見えなかった損傷」をDTIで可視化し、専門医意見書・神経心理学的検査・生活実態の3つが一本の線で繋がったことが決め手でした。

【事例分析②】PET検査で9級10号を獲得したケース

CASE 02
非該当 → 9級10号(神経系統の機能の障害)認定

対象者

40代女性・パート勤務

事故状況

市街地での出合い頭事故

初回審査結果

非該当

主な症状

慢性頭痛・集中力低下・感情不安定

非該当の原因分析

初回のSPECTは通常の安静時撮影のみ。神経心理学的検査は外来での短時間施行で「疲労・ストレス下での機能低下」が反映されていなかった。生活状況報告書も抽象表現にとどまっていた。

異議申し立てで追加した証拠

FDG-PET検査の実施

前頭前野と帯状回の代謝低下パターンが明確に検出されました。PETは「代謝活性」を直接測定するため、通常SPECTより病理学的な変化を捉えやすいという特徴があります。

負荷条件下での神経心理学的検査

二重課題条件での検査を実施。通常条件では境界域だったPASATスコアが、二重課題条件では著明に低下。「疲労・負荷時に症状が顕在化する」という変動性の実態を数値で示しました。

職場の第三者証明

20年勤務のスーパーマーケットで「複数の業務を同時に指示されると混乱してフリーズ」という店長名義の証明書を取得。勤務形態変更の経緯も記録。

リハビリ専門病院での多職種評価書

作業療法士・言語聴覚士・臨床心理士の3種類の専門評価書を揃えました。

✅ 異議申し立て結果

9級10号(神経系統の機能の障害)を認定

逆転のポイント:「通常条件では軽微」という先入観を「負荷条件下での著明な低下」と「PETによる代謝異常」で打ち破ったことが鍵でした。

【事例分析③】低等級(12級)から5級2号へ再認定されたケース

CASE 03
12級13号 → 5級2号(数千万円規模の賠償額の差)

対象者

30代男性・IT技術者

事故状況

自転車走行中に自動車と衝突

初回審査結果

12級13号(低等級)

主な症状

記憶障害・注意障害・遂行機能障害

⚠️

初回報告書の「自分のペースでなら仕事に従事できる」という一文が、「就労能力に大きな支障はない」と解釈されてしまいました。

異議申し立てで追加した証拠

高次脳機能障害専門外来への受診

「記憶障害・注意障害・遂行機能障害が複合的に存在し、職業的・日常生活的機能に著しい制限をきたしている」と専門医が診断。

就労実態の詳細記録

「週3日・1日3時間以内に制限」「コードのレビューが全くできなくなりデータ入力のみに変更」「年収が事故前の65%まで低下」を給与明細・業務変更記録とともに提出。

脳波・事象関連電位(P300)検査

P300潜時の延長が認められ、認知処理速度の客観的低下を支持する所見として機能しました。

✅ 異議申し立て結果

5級2号(神経系統の機能の著しい障害)へ等級変更

逆転のポイント:「自分のペースなら仕事できる」という記載が生んだ誤解を就労実態の詳細記録で完全に上書きし、専門外来という権威ある診断機関の評価が加わったことが決定的でした。

異議申し立てで準備すべき重要書類チェックリスト

📷 画像・検査系
DTI(拡散テンソルイメージング)検査報告書
FDG-PET検査報告書(代謝異常の可視化)
脳血流SPECT検査報告書(必要に応じて負荷条件下)
脳波・事象関連電位(P300)検査報告書
MRスペクトロスコピー(NAA値の測定)
初回画像との比較読影報告書(専門放射線科医による)

📊 神経心理学的検査系
WAIS-IV(知能・記憶・処理速度・ワーキングメモリ指数)
TMT-A/B(注意・遂行機能)
PASAT(処理速度・注意)
BADS(遂行機能障害の行動評価)
負荷条件下・疲労条件下での再検査結果
事故前の知的水準の推定資料(学歴・職歴・資格等)

📄 医師・専門家の意見書系
脳神経外科・神経内科専門医による因果関係意見書
リハビリ専門医による機能評価書
作業療法士・言語聴覚士・臨床心理士による多職種評価書
専門医による「非該当理由への反論意見書」

📋 生活実態・社会的証明系
日常生活状況報告書(エピソード形式で全面書き直し)
職場からの業務変更・就労制限の証明書
給与明細・源泉徴収票(収入の変化)
上司・同僚・家族の陳述書
家事・育児への支障を示す記録

異議申し立ての手続きと期限

申立先と手続きの種類

ROUTE
自賠責保険への異議申し立て(再審査)

同じ保険会社・損害保険料率算出機構に対して再審査を求めます。費用はかかりませんが、追加する証拠が新しい内容でなければ意味がありません。申し立て回数に制限はありません。

ROUTE
自賠責保険・共済紛争処理機構への申請

中立的な第三者機関による審査です。初回・異議申し立てで非該当が続いた場合の次のステップとして有効です。

ROUTE
訴訟(裁判)

最も時間・費用がかかりますが、裁判官が証拠全体を総合判断するため、自賠責審査では評価されにくかった証拠(DTI・PET等)が正当に評価されることがあります。

時効に注意:後遺障害の損害賠償請求権の消滅時効は、症状固定日から5年です(2020年の民法改正後)。期限管理は弁護士に任せることを推奨します。

まとめ:「非該当」は仮の結果に過ぎない

  • 高次脳機能障害の非該当・低等級の多くは「症状がなかったから」ではなく「証拠が不十分だったから」。証拠を補強すれば覆せる可能性がある。
  • 非該当になった理由を正確に分析することが、異議申し立て成功の出発点。理由を特定せずに再申請しても同じ結果になる。
  • 追加証拠の核心はDTI・PET等の先進画像検査、神経心理学的検査、専門医意見書、具体的エピソードによる生活実態の記録の4点。
  • 事例①はDTIによる可視化、事例②はPETと負荷条件下検査、事例③は就労実態の詳細記録が逆転の鍵。いずれも「初回になかった証拠を追加する」という共通構造がある。
  • 異議申し立て・紛争処理機構・訴訟という3つのルートを、証拠の状況と時間・費用を踏まえて弁護士と選択する。
  • 時効は症状固定日から5年。早期に弁護士に相談することで取れる手が広がる。

「一度非該当になったが諦めたくない」という方も、まずはご相談ください。

📞 0120-440-018平日 9:00〜18:30|初回相談無料・着手金無料

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この記事を書いた弁護士

弁護士 石田大輔(名城法律事務所サテライトオフィス)
愛知県弁護士会所属(登録番号:42317)
https://daisukeishida.jp/koutsujiko/

※本記事は法的・医療的アドバイスを目的とするものではありません。また、事例はプライバシー保護のため一部を変更・再構成しています。具体的なご状況については、専門の医師・弁護士にご相談ください。

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