監修 石田 大輔 (いしだ だいすけ)

名城法律事務所サテライトオフィス 代表

所属 / 愛知県弁護士会 (登録番号42317)

保有資格 / 弁護士

医師が何気なく書く「経過良好」の一言が、あなたの等級を奪っている

後遺障害の認定で、被害者が気づかないまま自ら不利な状況を作ってしまう落とし穴があります。それは、診断書やカルテに医師が何気なく書いた「経過良好」「軽快傾向」という一言です。

しびれや痛みといった神経症状は、骨折と違って画像にはっきり写りません。だからこそ、被害者本人が「どう感じているか」を医師に正確に伝え、それが診断書に反映されているかが、等級認定を決定的に左右します。ところが、痛みを我慢して「だいぶ良くなりました」と答えてしまうと、医師は善意でそれを「経過良好」と記録し、結果として「症状は残っていない」と評価されてしまうのです。同じ症状でも、伝え方ひとつで14級が認められることもあれば、非該当に終わることもある――それが神経症状の難しさです。

診断書が有利になるかどうかの壁は、症状の重さそのものではなく、「残っている症状が、正確な言葉で医師に伝わり、書面に残っているか」という伝達レベルの違いです。この記事では、医療連携に強い弁護士の視点から、自覚症状を正しく伝えるための「メモ術」を解説します。

後遺障害診断書とは何か――なぜ自覚症状欄が命綱か

後遺障害診断書は、症状固定の時点で残った障害をまとめる、認定の最重要書類です。なかでも神経症状(しびれ・痛み)の場合、自覚症状欄の記載が決定的な意味を持ちます。

なぜなら、神経症状は他覚的所見が乏しいことが多く、「本人がどこに、どんな症状を、どの程度感じているか」という自覚症状の記載が、症状の存在を示す柱になるからです。ここが曖昧だったり、「経過良好」と矛盾していたりすると、たとえ実際に痛みが残っていても、認定機関はそれを評価できません。

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要確認ですが、認定の判断では症状固定時の診断書だけでなく、通院中のカルテの記載も参考にされることが多いとされます。つまり、診察のたびにどう伝えてきたかの積み重ねが、最後の診断書の説得力を支えるのです。

「治療の物差し」と「賠償の物差し」――決定的な違いは何か

ここで理解しておくべき、重要な構造があります。医師と認定機関では、症状を見る「物差し」がまったく違うのです。

医師

治療の物差し

治療者として、受傷直後と比べて改善した点に目を向け、患者を励ます意味でも「良くなってきましたね」と評価しがち。

認定機関

賠償の物差し

見るのは、治療を尽くしてもなお残った症状、つまり「残存」の部分。「楽になった部分」ではなく「残った部分」で評価する。

つまり、患者が「楽になった部分」を強調すると治療上は喜ばしくても、賠償上は「残っていない」と読まれかねません。残った症状を、正確に、漏れなく伝えることが必要なのです。医師は嘘をつくわけではなく、患者の言葉をそのまま受け取っているにすぎません。だからこそ、何をどう伝えるかは被害者側の責任でもあるのです。

なお、これは症状を誇張することではありません。あくまで「実際に残っている症状を、正確に言語化する」ことが目的です。

【症状メモに書くべき4要素】何を整理すれば「正確」になるのか

医師に症状を正確に伝えるには、診察前に次の4要素を整理したメモを用意することが有効です。

1

どこが(部位)

痛みやしびれのある部位を具体的に書きます。「右手」ではなく「右手の親指・人差し指の先」のように、できるだけ細かく特定します。複数あれば、すべて挙げます。

2

どのように(性質)

症状の性質を、感覚的な言葉で表現します。「しびれ」「ズキズキする痛み」「電気が走るような痛み」「灼けるような痛み」「だるさ」など、性質が違えば医学的な意味も変わります。例えば「電気が走るような痛み」は神経の障害を示唆する重要な手がかりになり、単なる「痛い」とは区別して伝える価値があります。

3

いつ・どのくらい(頻度・タイミング)

「常に」なのか「特定の動作のとき」なのかを区別します。「朝起きたとき」「同じ姿勢が続いたとき」「上を向いたとき」など、症状が出る・強まる場面と、一日のうちどれくらいの時間続くかを記録します。

4

どれくらい困るか(程度・生活への支障)

症状が日常生活や仕事にどう影響しているかを書きます。「字を書くと痛んで長く続けられない」「夜間に痛みで目が覚める」「重い物が持てない」など、具体的な支障こそが症状の重さを物語ります。抽象的に「つらい」と言うより、何ができなくなったかを挙げるほうが、はるかに正確に伝わります。

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これら4要素が揃ったメモがあれば、医師は的確な記載がしやすくなり、診断書の説得力が大きく増します。

【「経過良好」が招く悪影響】何が問題なのか

「経過良好」をはじめとする記載が、認定にどう響くかには典型的なパターンがあります。

パターン1

自覚症状の過小評価

患者が遠慮や我慢から「大丈夫です」と答え、医師が「軽快」と記録。本当は残っている症状が書面に残らず、ないものとして扱われる。

パターン2

記載の矛盾

通院中のカルテに「経過良好」とあるのに、診断書では「症状残存」とされ、一貫性を欠くと判断される。

パターン3

症状欄が空白・簡素

自覚症状欄が「頚部痛・しびれあり」程度で、部位も頻度も程度も不明。症状の重さが伝わらない。

パターン4

日常生活への支障が不記載

痛みで何ができないのかが書かれておらず、症状が軽微だと読まれてしまう。

⚠️

これらのいずれか一つでも該当すれば、実際の症状より低く評価されるおそれがあります。

【症状を正確に伝えるメモの作り方】どう書けば伝わるか

4要素を踏まえ、実際にメモを作るうえでのポイントを整理します。

ポイント① 診察の前日までに書きためる

その場で思い出そうとすると、肝心の症状を言い忘れます。診察は数分で終わることも多く、限られた時間で要点を伝えるには事前の準備が欠かせません。日々感じた症状をメモに書きためておき、診察に持参します。

ポイント② 身体の図に書き込む

言葉だけでなく、身体の絵に「痛む場所」を印で示すと、部位が一目で伝わります。本記事末尾で配布する「症状マップメモ」は、この図入りの記録ができる様式です。

ポイント③ 受傷直後から一貫させる

症状は、受傷直後から症状固定まで一貫していることが重要です。後から増えた症状は事故との因果関係を疑われやすいため、初期から同じ症状を継続して記録します。逆に、最初から訴えていた症状を途中で書き忘れると、「治った」と受け取られかねません。

ポイント④ 誇張せず、正確に書く

実際以上に書くと、検査結果や他の記載と矛盾し、かえって信用を失います。あくまで「実際に残っている症状を、正確に」が原則です。不確かですが、メモを渡すだけでなく、診察時に口頭でも要点を伝えると、より確実に記載につながることが多いとされます。

【診断書チェックのポイント】受け取ったら何を確認するか

診断書は医師が作成しますが、内容を確認するのは被害者自身の役割です。できあがったら、提出前に次の点を必ず確認してください。

✅ 確認すべき記載

  • 自覚症状欄:部位・性質・頻度・程度が具体的に書かれているか
  • 他覚的所見欄:実施した神経学的検査・画像所見が反映されているか
  • 症状固定日・今後の見通し:「症状残存の見込み」等の記載があるか

⚠️ 残っていたら要注意

  • 「経過良好」等、残存と矛盾する記載が残っていないか
  • 自覚症状欄が空白・簡素になっていないか
  • 日常生活への支障の記載が抜けていないか

明らかな不備や事実と異なる記載があれば、提出前に医師へ相談することが大切です。

「正確な診断書」を得るための3つの戦略

戦略 1

症状メモを作って診察に持参する

メリット言い忘れを防ぎ、自覚症状が正確に伝わる。費用もかからず、誰でも今日から実践でき、効果に対して負担が最も小さい方法。

デメリット継続的に記録する手間がかかる。書きためを怠ると効果が薄れる。

戦略 2

受傷直後から一貫して症状を記録する

メリット症状の一貫性・連続性が裏づけられ、診断書の信用性が高まる。

デメリット長期間の記録が必要で、途中で症状が変化した場合は経緯の説明も求められる。

戦略 3

医療連携に強い弁護士に相談する

メリット何をどう伝えれば等級につながるかを逆算して準備でき、医師への依頼も的確になる。

デメリット弁護士費用が発生する(ただし弁護士費用特約があれば被害者負担はゼロのことが多い)。

訂正・追記の依頼――書かれた後でも直せるか

診断書を受け取った後で不備に気づいた場合、医師に訂正や追記を依頼できることがあります。ただし、事実に基づかない書き換えを求めることはできず、あくまで「実際の症状が正確に反映されていない部分の是正」に限られます。また、医師にも作成の負担があるため、何を直してほしいのかを整理し、敬意をもって相談する姿勢が円滑な対応につながります。

成功のためには、次のような裏づけを揃えたうえで、丁寧に相談することが原則として必要です。

  1. どの記載が、実際の症状とどう食い違うのかの整理
  2. 追加の自覚症状メモや、診察時の訴えの記録
  3. 必要に応じた追加の神経学的検査の実施

一度提出してしまう前に確認することが、何より重要です。

まとめ:診断書の優劣は「伝達の正確さ」で決まる

この記事の要点を整理します。

  • 神経症状は画像に写りにくいため、自覚症状欄の記載が等級認定の柱になる。
  • 医師が善意で書く「経過良好」は、「症状が残っていない」と読まれ、認定を不利にすることがある。
  • 医師と認定機関では症状を見る「物差し」が違い、患者は「残った症状」を正確に伝える必要がある。
  • 症状メモには、部位・性質・頻度/タイミング・生活への支障という4要素を、誇張せず正確に整理する。
  • 受傷直後から一貫して記録し、診断書は提出前に必ず内容を確認する。
  • 不備があれば、事実の範囲で訂正・追記を依頼できる。提出前の確認が決定的に重要。
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「だいぶ良くなりました」と答える前に、本当に残っている症状を漏れなく伝えられているか、必ず立ち止まって確認してください。一度提出された診断書を後から覆すことは、容易ではありません。

※本記事は法的・医療的アドバイスを目的とするものではありません。記載の内容・考え方は一般的な目安であり、個別のケースでは事情により判断が変動します。診断書の記載はあくまで事実に基づくものであり、虚偽の記載を求めるものではありません。具体的なご状況については、交通事故に詳しい弁護士・医師にご相談ください。