監修 石田 大輔 (いしだ だいすけ)
名城法律事務所サテライトオフィス 代表
所属 / 愛知県弁護士会 (登録番号42317)
保有資格 / 弁護士
激痛に苦しんでいるのに「非該当」――CRPSが認定されない本当の理由
交通事故の後遺障害で、被害者がもっとも理不尽さを感じる場面があります。それは、灼けつくような激しい痛みに毎日苦しんでいるのに、後遺障害等級が「非該当」あるいは12級・14級にとどまってしまうことです。
CRPS(複合性局所疼痛症候群)は、痛みの強さと、画像に写る異常の乏しさが極端に乖離する疾患です。被害者本人にとって痛みは紛れもなく本物なのに、自賠責の認定実務は、その痛みを「他覚的に裏づけられているか」という冷徹な基準で評価します。骨折のように画像で一目瞭然の損傷とは違い、CRPSは「見えにくい激痛」であるがゆえに、適切な立証を欠くと正当な評価を受けられないのです。
CRPSが認定されるかどうかの壁は、症状の重さそのものではなく、その激痛が「関節拘縮・骨萎縮・皮膚変化という他覚的所見で裏づけられているか」という立証レベルの違いです。この記事では、激痛がありながら認められないケースの原因と、認定を勝ち取るための客観的データの活用法を解説します。
CRPSとは何か――2つのタイプと等級
CRPSは、外傷をきっかけに、損傷の程度に見合わない激しい痛みが長く続く疾患で、大きく2つに分類されます。
RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)
明らかな神経損傷を伴わないもの。
カウザルギー
特定の末梢神経の損傷を伴うもの。
いずれも、灼熱痛、アロディニア(軽い接触でも激痛が走る)、皮膚の色調・温度の変化、腫脹などを特徴とします。特にカウザルギー(タイプ2)は、神経損傷という明確な原因があるにもかかわらず、その損傷自体は軽微に見えることがあり、痛みの激しさと釣り合わない点が立証を難しくします。
要確認ですが、自賠責でCRPSとして問題となりうる等級は、主に7級4号・9級10号・12級13号です。労働能力喪失率も等級によって大きく異なり、認定される等級によって賠償総額は数百万円から千万円単位で変わります。
| 等級 | 号 | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 7級 | 4号 | 56% |
| 9級 | 10号 | 35% |
| 12級 | 13号 | 14% |
※上記の等級・喪失率は一般的な目安です。実際の認定・賠償額は個別の事情により変動します。
「激痛」と「他覚的所見」――決定的な違いは何か
ここで被害者を最も苦しめる、重要な事実があります。専門医がCRPSと診断しても、それだけでは高い等級が認められるとは限らない、という点です。
医師の臨床診断(例えばブダペスト基準による診断)は、患者の自覚症状と所見を総合した「診断」です。一方、自賠責の認定実務が重視するのは、慢性期に現れる次の他覚的所見が、客観的なデータとして記録されているかどうかです。
不確かですが、自賠責・労災の実務では、関節拘縮・骨の萎縮・皮膚の変化という慢性期の他覚的所見が重視され、これらが揃わないと高い等級は認められにくいとされています。つまり「痛い」「診断がついた」だけでは足りず、「痛みが身体の客観的変化として現れている」ことの立証が要求されるのです。いわば、痛みという見えない事実を、サーモグラフィーやレントゲンといった「他覚的な言語」に翻訳できるかどうかが問われている、と言い換えられます。
【CRPS認定の4要件】何が揃えば「他覚的」になるのか
高い等級を勝ち取るには、次の4つが高い水準で揃っている必要があります。
専門医による確定診断
まず、CRPSの診断に精通した専門医(ペインクリニックやCRPSの診療経験が豊富な整形外科医等)による確定診断が出発点です。ブダペスト基準等に沿って、自覚症状と他覚所見が体系的に評価されていることが望まれます。
CRPSは診療に習熟していない医師では見落とされたり、診断名が曖昧になったりしやすく、最初にどの医師にかかるかが結果を大きく左右します。
関節拘縮(他覚的所見その1)
罹患した部位の関節可動域が制限されていることが必要です。健側との比較で、関節可動域(ROM)測定の数値が記録されていることが立証の鍵になります。
骨の萎縮(他覚的所見その2)
X線で、いわゆるズデック骨萎縮(罹患部の斑状・びまん性の骨脱灰像)が確認されることが重要です。これは痛みのために患部を動かさなくなることなどで生じる変化で、CRPSに特徴的とされます。
さらに、三相骨シンチグラフィーで罹患部の異常集積が示されれば、強力な裏づけになります。
皮膚の変化(他覚的所見その3)
皮膚温の左右差、発汗異常、皮膚の萎縮・色調変化等が記録されていることが必要です。ここで威力を発揮するのがサーモグラフィーで、患側と健側の皮膚温の差を客観的な画像データとして示せます。
これら②〜④の他覚的所見が、客観的検査データとともに揃ってはじめて、「激痛が身体に現れている」と評価されます。
【認定されない・低位にとどまるケース】何が足りないのか
CRPSが非該当や低い等級にとどまるケースには、典型的なパターンがあります。
他覚的所見が記録されていない
痛みの訴えはカルテにあるが、関節拘縮・骨萎縮・皮膚変化が検査・記録されていない。
客観的検査が未実施
サーモグラフィー、骨シンチ、ROM測定等が行われておらず、痛みを裏づけるデータがない。
症状経過の不一致
受傷部位と疼痛・所見の部位が解剖学的に整合しない、または症状の出現時期が受傷から不自然に遅く、事故との因果関係を疑われる。
専門医の関与がない
CRPSの診療に不慣れな医師の診断のみで、診断名や所見の評価が曖昧。
これらのいずれか一つでも該当すれば、激痛があっても等級は遠ざかります。
【客観的データの活用ポイント】何を、いつ撮るべきか
CRPSの立証では、客観的検査をどう使うかが決定的です。
ポイント① サーモグラフィー
患側と健側の皮膚温の差を可視化します。温度の左右差は皮膚変化の有力な裏づけになります。室温管理など撮影条件を整えたうえで実施することが重要です。
ポイント② X線・骨シンチグラフィー
X線でズデック骨萎縮を、三相骨シンチで罹患部の血流・代謝異常を確認します。両者を組み合わせると説得力が増します。
ポイント③ 関節可動域測定
罹患関節の拘縮を、健側との比較で数値化します。経時的に複数回測定し、拘縮の固定を示せると有効です。
ポイント④ 検査のタイミング
慢性期の所見は、急性期を過ぎ症状が固定する時期に現れます。早すぎると所見がまだ出ておらず、遅すぎると治療によって所見が軽快してしまうこともあるため、専門医と相談して適切な時期に検査を行うことが大切です。不確かですが、サーモグラフィー等は実施できる医療機関が限られるため、対応可能な施設を早めに探しておくことが立証の成否を分けることがあります。
【診断書・立証書類のポイント】何を書いてもらうべきか
後遺障害診断書には、次の項目が漏れなく記載されているか必ず確認してください。
✅ 必須記載項目
- CRPSの診断名と、診断の根拠(用いた診断基準)
- 自覚症状:灼熱痛・アロディニア等の部位・性質・程度
- 他覚的所見:関節拘縮の程度、骨萎縮の有無、皮膚温・発汗・色調の変化
- 実施した客観的検査:サーモ・骨シンチ・X線・ROM とその結果
- 症状固定日と今後の見通し
⚠️ これだけでは不十分
- 「疼痛が持続。CRPSの疑い」程度の簡素な記載
- 診断名だけで、客観的検査データが添付されていない
- 他覚的所見(拘縮・骨萎縮・皮膚変化)の具体的記載がない
「疼痛が持続。CRPSの疑い」程度の記載では、高い等級は獲得できません。専門医に十分な情報を提供し、客観的データを添えた詳細な診断書を作成してもらうことが不可欠です。
「等級認定」を勝ち取るための3つの戦略
CRPSに精通した専門医・ペインクリニックを受診する
メリット適切な診断基準に沿った評価と、必要な客観的検査を受けられる。
デメリット専門施設が近隣にない場合、通院の負担が大きい。受診まで時間がかかることがある。
客観的検査データを適切な時期に取得する
メリット激痛を「他覚的所見」として記録でき、認定の決定的な根拠になる。
デメリット検査機器のある施設が限られ、撮影条件の管理も必要で、手間と費用がかかる。
弁護士・医療機関と連携した立証設計
メリットどの所見をどの検査で押さえるかを逆算して準備でき、認定率と賠償額が向上する。
デメリット弁護士費用が発生する(ただし弁護士費用特約があれば被害者負担はゼロのことが多い)。準備に相応の期間を要する。
異議申立て――非該当・低位から覆ることはあるか
最初の認定が非該当や12級・14級であっても、異議申立てによって上位等級に変更される余地があります。ただし、新たな客観的資料の追加なしに異議申立てをしても、結果が覆る可能性は極めて低いのが実情です。
異議申立てで成功するためには、次のような新証拠の追加が原則として必要です。
- 未実施だったサーモグラフィー・骨シンチ等の追加検査
- 専門医による所見の再評価と意見書
- 関節可動域・皮膚温の経時的データの補強
- 診断基準への該当性を整理した説明書
激痛という事実は変わらないのですから、それを客観的データに翻訳できれば、再挑戦する価値は十分にあります。
まとめ:CRPSの壁は「激痛を他覚化できるか」で決まる
この記事の要点を整理します。
- ①CRPSは痛みの強さと画像所見の乏しさが乖離するため、激痛があっても非該当・低位等級にとどまりやすい。
- ②認定の分かれ目は「激痛が他覚的所見で裏づけられているか」であり、ブダペスト基準による臨床診断がついても、それだけでは高い等級に直結しない。
- ③高い等級には、確定診断・関節拘縮・骨萎縮・皮膚変化という4要件を、客観的検査データとともに高水準で揃える必要がある。
- ④サーモグラフィー・骨シンチ・X線・ROM測定が決定的な裏づけとなり、検査のタイミングが成否を左右する。
- ⑤後遺障害診断書は、CRPSに精通した専門医に、客観的データを添えた詳細な記載を依頼することが不可欠。
- ⑥最初が非該当・低位でも、新たな客観的資料を加えた異議申立てで上位等級に覆る余地がある。諦めないこと。
「これ以上は認められません」という説明を受ける前に、本当に激痛を他覚的データに翻訳できていないか、必ず専門医と弁護士の両面から検証してください。痛みの立証は、時間が経つほど難しくなります。
※本記事は法的・医療的アドバイスを目的とするものではありません。記載の認定要件・基準・数値は一般的な目安であり、個別のケースでは事情により判断が変動します。具体的なご状況については、交通事故に詳しい弁護士・CRPSの診療に精通した医師にご相談ください。
