監修 石田 大輔 (いしだ だいすけ)

名城法律事務所サテライトオフィス 代表

所属 / 愛知県弁護士会 (登録番号42317)

保有資格 / 弁護士

目次

後遺障害の可動域評価は原則「他動」ですが、麻痺などでは「自動」が重要になる例外があります

交通事故で肩、肘、手首、股関節、膝、足首などを骨折した後、「自分では肩を90度までしか上げられないのに、医師が動かすと130度まで上がる」「膝は自分の力では十分に曲げられないが、リハビリの先生に動かしてもらえばもっと曲がる」ということがあります。

自動可動域とは、自分自身の筋力を使って関節を動かせる範囲です。他動可動域とは、本人の筋力だけではなく、医師や理学療法士など第三者が外から力を加えて関節を動かした場合の範囲です。

交通事故の後遺障害認定では、この2つを同じように扱うわけではありません。関節機能障害の評価では、原則として他動運動による可動域測定値が基本となります。厚生労働省が公表している関節機能障害の認定基準でも、関節可動域は原則として他動運動による測定値によると明確に示されています。

そのため、健側の他動可動域140度、患側の他動可動域90度、患側の自動可動域60度という場合、単純に自動可動域60度だけを見て「患側は健側の2分の1以下だから10級」と判断するわけではありません。原則として他動可動域90度を基準に検討します。

一方で、これには重要な例外があります。例えば交通事故によって末梢神経を損傷し、関節を動かす筋肉が弛緩性麻痺となっている場合です。この場合、他人が動かせば関節は動くものの、本人は神経麻痺のため動かせないという状態になります。他動可動域だけを評価すれば「関節は正常に近く動いている」ように見えてしまいますが、本人は実際にはその関節を使えません。このようなケースについて厚生労働省の認定基準では、末梢神経損傷によって関節を動かす筋が弛緩性麻痺となり、他動では動くが自動では動かせないケースなどを、他動運動による測定値を採用することが適切でない場合として示し、自動運動による測定値を参考として障害を認定する必要があるとしています。さらに、関節を他動で動かすと耐え難いほどの疼痛が生じ、自動では動かせないことが医学的に判断される場合も例外として示されています。

⚠️

原則は他動可動域です。ただし、麻痺・重度の疼痛など、他動値では本人の実際の関節機能を評価できない医学的理由がある場合には、自動可動域も重要になる、という構造です。

この記事では、交通事故の後遺障害認定における他動可動域と自動可動域の違い、なぜ他動が原則なのか、麻痺の場合の例外、測定方法、8級・10級・12級との関係、診断書で注意すべきポイントまで実務的に解説します。

【最初に整理】自動可動域と他動可動域の違い

まず2つの違いを整理します。

項目自動可動域他動可動域
動かす人患者本人医師・理学療法士等
主な力本人の筋力外部から加えられる力
英語Active ROMPassive ROM
表すもの実際に本人が自力で動かせる範囲関節・軟部組織などが物理的に動ける範囲
後遺障害認定原則ではない原則としてこちらを評価
例外麻痺・一定の重度疼痛等で重要実態を表さない場合は自動値も参考

例えば肩を骨折した人が、自分では80度までしか腕を上げられないものの、医師が腕を支えてゆっくり動かすと120度まで上がる場合、自動可動域80度、他動可動域120度となります。

この40度の差がなぜ生じているのかが重要です。認定では、数字だけではなく、次のような可動域制限の原因を確認する必要があります。

  • 単なる筋力低下なのか
  • 痛みによるものなのか
  • 神経麻痺なのか
  • 関節そのものが硬くなっているのか

なぜ後遺障害認定では「他動可動域」が原則なのか

「実際に自分で動かせるのは80度なのだから、自動可動域を使う方が生活上の障害を正確に表すのでは?」と疑問に思うかもしれません。しかし、関節が動かない原因には複数の種類があります。厚生労働省の認定基準でも、測定前に障害の原因を明らかにする必要があるとして、関節制限の原因を器質的変化と機能的変化に分けています。

器質的な制限

関節・周囲組織そのもの

関節自体の破壊、強直、関節外の軟部組織の変化、拘縮などがあります。

機能的な制限

筋力・神経・痛みなど

神経麻痺、疼痛、緊張などがあります。

他動可動域では本人自身の筋力を使わず第三者が関節を動かすため、関節そのものがどこまで物理的に動くのかを評価しやすくなります。一方、自動可動域には、次のような複数の要因が影響します。

  • 筋力
  • 痛み
  • 恐怖心
  • 神経機能
  • 本人の努力

したがって、認定基準の構造からみると、まず他動可動域によって関節そのものの機能制限を評価し、それだけでは障害の実態を表せない医学的理由がある場合に自動可動域を検討する、という考え方になっています。

【一覧】関節可動域と8級・10級・12級の基本的な関係

上肢・下肢の三大関節については、基本的に次のように評価されます。

等級障害の程度主な基準上肢下肢
8級関節の用を廃したもの強直・完全弛緩性麻痺等8級6号8級7号
10級著しい機能障害原則として健側の1/2以下10級10号10級11号
12級機能障害原則として健側の3/4以下12級6号12級7号

厚生労働省の認定基準では、関節の可動域が健側の2分の1以下であれば「著しい機能障害」、4分の3以下であれば「機能障害」と整理されています。そして、この比較に使用する可動域は、原則として他動運動による測定値です。

自動なら10級、他動なら12級になることもある

具体例で考えてみます。健側の膝関節が140度動くとします。患側は、自動可動域65度、他動可動域90度だったとします。

自動可動域だけなら、65 ÷ 140 = 約46%なので、健側の2分の1以下です。数値だけ見れば10級相当の範囲です。しかし他動可動域では、90 ÷ 140 = 約64%です。2分の1を超え、4分の3以下です。原則として他動可動域を評価するため、この数値関係だけで考えれば、10級ではなく12級の可動域基準が検討対象になります。

つまり、自動と他動のどちらを採用するかで、想定される等級が変わる可能性があるということです。だからこそ、後遺障害診断書の可動域欄は非常に重要です。

「自分では動かない」というだけで自動可動域が採用されるわけではない

ここは特に重要です。自動可動域と他動可動域に大きな差があったとしても、それだけで自動可動域が採用されるわけではありません。例えば、自動50度、他動120度という測定結果だったとします。この場合に必要なのは、「50度しか動かせません」という本人の訴えだけではありません。なぜ本人自身では50度しか動かせないのかを医学的に説明する必要があります。例えば、次のような末梢神経損傷による麻痺が確認されているケースです。

  • 橈骨神経損傷
  • 腓骨神経損傷
  • 腕神経叢損傷
  • その他の末梢神経損傷

厚生労働省の基準でも、他動値を採用することが適切でない例として、「末梢神経損傷」を原因として関節を動かす筋が弛緩性麻痺となったケースを具体的に挙げています。したがって重要なのは、自動と他動の差ではなく、その差が生じる医学的原因です。

【例外①】末梢神経損傷による弛緩性麻痺

自動可動域が重要になる代表例が、末梢神経損傷です。例えば交通事故によって橈骨神経を損傷したとします。関節そのものは壊れていないため、他人が手首を持てば背屈方向へ動かすことができます。しかし、神経損傷によって筋肉へ適切な指令を送れなければ、本人自身では手首を反らせることができません。

この場合、他動は正常に近い、自動はほとんど動かないという大きな差が出ることがあります。他動値だけで評価すると「手首は十分動く」という結果になってしまいます。しかし本人は自分の意思では手首を動かせません。そこで、このようなケースでは自動可動域を参考として障害を認定します。

完全弛緩性麻痺なら「関節の用廃」が問題になる

さらに重要なのが、完全弛緩性麻痺です。厚生労働省の認定基準では、関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態について、「関節の用を廃したもの」に該当するとしています。「これに近い状態」とは、他動では関節が動くものの、自動可動域が健側の10%程度以下となった状態です。

例えば健側の自動可動域が100度で、患側は10度程度しか自分で動かせない。さらにその原因が末梢神経損傷による弛緩性麻痺として医学的に確認されている。このような場合には、単純な10級・12級ではなく、上肢なら8級6号、下肢なら8級7号という「関節の用廃」が問題になる可能性があります。つまり麻痺案件では、他動可動域が良好だから障害が軽いとは限りません。

【例外②】耐え難い疼痛が医学的に確認される場合

自動可動域を参考とする例外は麻痺だけではありません。厚生労働省の認定基準では、関節を動かすと我慢できない程度の痛みが生じるため、自動では動かせないと医学的に判断される場合も挙げられています。

ここで重要なのは、「痛いと言えば自動可動域を採用してもらえる」という意味ではないことです。認定基準は、「医学的に判断される場合」としています。したがって、次のような点と、疼痛による運動制限との整合性が重要になります。

  • 骨折部位
  • 関節面損傷
  • 画像所見
  • 神経損傷
  • CRPS等の診断
  • 治療経過
  • 診察時の所見

単なる本人の訴えだけでなく、医学的な裏付けが必要です。

自動と他動の差が大きい場合に考えられる原因

自動可動域と他動可動域が大きく違う場合には、原因を整理します。例えば、次のような原因が考えられます。

1

筋力低下

骨折後に長期間固定していた場合、筋力が低下することがあります。第三者が動かせば関節は動くものの、自分では十分に動かせない場合があります。

2

神経麻痺

末梢神経損傷によって筋肉を動かすことができなくなるケースです。

3

疼痛

自分で力を入れると強い痛みが出るため、自動可動域が小さくなる場合があります。

4

腱・筋の損傷

関節自体は動くものの、関節を動かす筋・腱が十分機能していないことがあります。

5

拘縮

拘縮が強い場合には、自動だけでなく他動可動域も制限されます。

つまり、自動だけ小さいのか、それとも自動・他動の双方が小さいのかによっても考えられる原因が変わります。

骨折後の可動域制限では「他動も制限されているか」が重要

交通事故による骨折では、次のような要因によって、関節そのものの動きが制限されることがあります。

  • 関節面の損傷
  • 骨癒合後の変形
  • 長期固定
  • 関節包の拘縮
  • 瘢痕・癒着

このような場合には、自動でも動かない、他動でも動かないという状態になります。

自動 ≒ 他動

差がほとんどない

健側140度・患側自動70度・患側他動72度。筋力や努力の問題というより、関節自体の物理的な可動域制限を疑いやすくなります。

自動 ≪ 他動

差が大きい

健側140度・患側自動60度・患側他動135度。関節そのものはかなり動くため、神経・筋力・疼痛・腱損傷など別の原因を確認する必要があります。

【実務例】橈骨神経損傷で「伸展0度」となる場合

厚生労働省の認定基準には、非常に具体的な例があります。手関節について、自動で90度屈曲できる一方、橈骨神経損傷によって伸展方向へは自動でまったく動かせないというケースです。

このように、一方向には自動で動かせるが、逆方向には動かせない場合には、基本肢位から自動できない方向については0度として評価する考え方が示されています。例えば健側の屈曲・伸展を合計した可動域が160度だった場合、患側は屈曲90度、伸展0度なので合計90度です。90 ÷ 160 = 約56%。健側の4分の3以下となるため、厚生労働省の例では「関節の機能障害」に該当するとされています。この例からも、神経麻痺では他動値だけを見てはいけないことが分かります。

なぜ「測定前に原因を明らかにする」必要があるのか

厚生労働省の認定基準が特に強調しているのが、測定前に障害の原因を明らかにすることです。例えば同じ「肩が90度しか上がらない」という症状でも、上腕骨近位端骨折後の関節拘縮なのか、腕神経叢損傷による麻痺なのか、強い疼痛による運動制限なのかで意味が違います。

関節拘縮なら、他動でも90度程度しか動かない可能性があります。一方、麻痺なら、他動では160度動く、自動では20度しか動かないということがあります。数字だけを診断書へ書いても、なぜその数字になっているのかが分からなければ、適切な後遺障害評価につながらない可能性があります。

可動域は「角度計」を使い、原則5度刻みで測定する

関節可動域は感覚で測るものではありません。厚生労働省の関節可動域測定方法では、十分な長さの柄を備えた角度計を使用し、通常は5度刻みで測定するとされています。例えば、「肩はだいたい90度くらい」では不十分です。後遺障害診断書では、右肩屈曲90度、左肩屈曲170度など、具体的な角度を記載します。さらに、自動値なのか他動値なのかも区別する必要があります。厚生労働省の測定基準でも、自動運動による値を使用する場合には、その旨を明記するとされています。

【重要】健側も必ず測る

可動域の後遺障害認定では、原則として患側だけではなく健側との比較を行います。例えば患側の膝が100度動いたとしても、健側が140度なのか、120度なのかで割合が変わります。健側140度の場合、100 ÷ 140 = 約71%なので、4分の3以下です。一方、健側120度なら、100 ÷ 120 = 約83%です。同じ患側100度でも結果が違います。したがって、右だけ骨折したから右だけ測ればよいということではありません。原則として健側・患側双方を測定します。

健側にも障害がある場合はどうするのか

反対側の関節が必ず正常とは限りません。例えば、次のような障害が健側にも存在する場合があります。

  • 過去の骨折
  • 変形性関節症
  • 人工関節
  • 関節拘縮
  • 先天的な障害

このような場合、健側との単純比較では正確に評価できません。厚生労働省の認定基準では、健側との比較が適切でない場合には参考可動域角度を用いる考え方があります。後遺障害診断書を作成する際には、「健側も事故前から変形性関節症がある」などの事情を確認しておく必要があります。

部位によって測る運動方向が違う

「肩が何度動くか」だけでは後遺障害を判断できません。各関節には、等級評価の中心となる「主要運動」があります。

関節主要運動参考運動
肩関節屈曲、外転・内転伸展、外旋・内旋 など
肘関節屈曲・伸展―
手関節屈曲・伸展橈屈・尺屈
股関節屈曲・伸展、外転・内転外旋・内旋
膝関節屈曲・伸展―
足関節屈曲・伸展―

そのため、「肩の自動可動域が90度」という情報だけでは不十分です。何の運動方向について90度なのかまで確認する必要があります。

自動・他動だけでなく「主要運動・参考運動」にも注意する

後遺障害認定では、自動か他動かだけを確認すればよいわけではありません。どの方向を測ったのかも重要です。例えば肩関節で主要運動が基準をわずかに上回っている場合でも、参考運動が一定程度制限されていれば、機能障害として評価される場合があります。厚生労働省の認定基準では、主要運動が2分の1または4分の3という基準をわずかに上回る場合、参考運動がそれぞれの基準以下なら、著しい機能障害または機能障害として評価する考え方を示しています。

したがって、他動・自動 × 健側・患側 × 主要運動・参考運動を正確に整理する必要があります。可動域診断が少々面倒なのは、人間の関節がSEOの表計算ほど親切に一方向だけへ動いてくれないからです。

【医証】自動可動域を採用してもらうために重要な資料

麻痺等によって自動可動域を評価する必要があるケースでは、「自動の方が狭い」という可動域表だけでは十分ではありません。重要なのは、その原因を医学的に証明することです。例えば末梢神経障害であれば、次のような点を確認します。

  • 正確な神経損傷の診断名
  • 事故・骨折・手術と神経障害との因果関係
  • MRI・CT等の画像所見
  • 神経伝導検査・筋電図等
  • 徒手筋力テスト(MMT)
  • 感覚障害の範囲
  • 自動可動域
  • 他動可動域
  • 麻痺の性状
  • 主治医の医学的意見

厚生労働省の神経障害認定基準でも、麻痺の範囲・程度について、身体所見やMRI、CT等による裏付けを求め、主治医の意見書に記載された麻痺の性状と関節可動域制限との整合性を確認する考え方が示されています。つまり、自動可動域が小さいことと、神経障害の医学的証拠がつながっていることが重要です。

「自動だけ記載」の後遺障害診断書には注意

症状固定時に後遺障害診断書を確認したところ、自動運動の数値だけが書かれているということがあります。しかし、原則として他動可動域で評価する関節障害について、他動値が記載されていなければ、必要な判断材料が不足する可能性があります。厚生労働省の診断書記載に関する資料でも、関節可動域制限が残存している場合には、原則として他動運動で測定し、患側・健側双方の可動域を記載するよう示されています。

したがって後遺障害診断書を受け取ったら、次の点が正確に記載されているか確認することが重要です。

  • 自動値
  • 他動値
  • 患側
  • 健側
  • 必要な運動方向

「他動だけ記載」でも問題になる場合がある

逆に、「原則は他動だから、自動は測らなくてよい」とも限りません。例えば神経麻痺が疑われる場合です。他動では正常に近い可動域があるため、他動値だけを見ると後遺障害が軽く見える可能性があります。しかし自動ではほとんど動かない。この場合には、自動可動域も記録し、なぜ他動値では実際の機能障害を評価できないのかを医学的に説明する必要があります。厚生労働省の基準も、自動運動を用いる場合にはその旨を明記することを求めています。

【否定・低い等級になりやすいパターン】何が不足しているのか

パターン1

自動可動域だけで10級を主張する

自動なら健側の2分の1以下でも、他動では4分の3以下にとどまる場合があります。麻痺などの例外がなければ、原則として他動値が重要です。

パターン2

自動と他動の差の理由が不明

「自動60度・他動130度」と書かれているだけで、神経損傷・疼痛・筋力低下などの原因が記載されていないケースです。

パターン3

麻痺の客観的な裏付けがない

「力が入らない」という本人の訴えだけではなく、神経学的検査や画像等との整合性が重要です。

パターン4

健側が測定されていない

患側だけでは、2分の1・4分の3という比較ができません。

パターン5

測るべき運動方向が不足している

肩・股関節などでは複数の主要運動があります。一方向だけの測定では十分に評価できない場合があります。

パターン6

症状固定時だけ急激に悪い値になっている

リハビリ中の測定では可動域が良かったのに、後遺障害診断時だけ突然大きく制限されている場合、測定値の整合性が問題になる可能性があります。

自動と他動に差がある=「本人がわざと動かしていない」ではない

ここも誤解しないことが重要です。自動可動域が他動可動域より小さいこと自体は、不自然ではありません。次のような要因によって普通に生じ得ます。

  • 筋力低下
  • 疼痛
  • 神経障害
  • 腱損傷

したがって、自動60度、他動120度だからといって、「本人が意図的に動かしていない」とは判断できません。重要なのは、その差を医学的に説明できるかです。後遺障害認定でも、数字だけを切り取るのではなく、その原因との整合性が必要になります。

【症状固定前】可動域の推移も記録しておく

症状固定時に一度だけ可動域を測るよりも、リハビリ期間中の推移が分かる方が障害の経過を説明しやすくなります。例えば、次のような推移です。

時期自動他動
事故3か月後60度75度
事故4か月後70度85度
事故5か月後80度90度
症状固定時82度92度

という推移であれば、改善してきたものの最終的に一定の可動域制限が残ったという経過が見えます。一方、途中まで他動140度だったのに症状固定時だけ70度となっていれば、その理由を確認する必要があります。次のような医学的な説明があるのかを調べます。

  • 骨癒合後の変形
  • 拘縮の悪化
  • 再手術
  • 新たな合併症

【後遺障害診断書】確認すべきポイント

症状固定時には、次の事項を確認します。

関節について

  • 傷病名
  • 骨折部位
  • 患側・健側
  • 主要運動
  • 参考運動
  • 他動可動域
  • 必要な場合の自動可動域

麻痺がある場合

  • どの神経を損傷したか
  • 弛緩性麻痺か
  • 筋力低下の程度
  • 感覚障害
  • 画像・神経学的検査
  • なぜ他動値だけでは適切に評価できないか

疼痛がある場合

  • 疼痛の部位
  • 原因となる器質的所見
  • どの運動で痛むか
  • 疼痛により自動運動が制限される医学的根拠

診断書は、「患者がどれくらい動かせるかを記録する紙」というだけではありません。後遺障害の原因と程度を医学的に結び付ける証拠です。

非該当・低い等級だった場合はどうするか

例えば、本人としては10級相当だと思っていたものの、12級または非該当という結果になる場合があります。その理由が、「自動では2分の1以下だが、他動では2分の1以下ではない」というケースもあり得ます。この場合、単に「自分では本当に動かせません」と再度主張するだけでは不十分です。確認するべきなのは、次の点です。

  1. 原則として他動評価が適切な障害なのか
  2. 自動値を参考にする医学的例外があるのか
  3. 神経麻痺が客観的に証明されているか
  4. 麻痺と自動可動域の制限が整合しているか
  5. 必要な神経学的検査が行われているか
  6. 後遺障害診断書に原因が記載されているか

不足している医学的資料がある場合には、その点を補強して異議申立てを検討します。

【実務】適切な等級認定のための3つの戦略

戦略 1

症状固定前に自動・他動の両方を把握する

自動と他動に大きな差がある場合は、症状固定後になってからではなく、その理由を早めに確認します。特に神経障害が疑われる場合には、どの神経が障害されているのか、必要な検査が行われているかを確認します。

戦略 2

数字ではなく原因を立証する

「自動なら2分の1以下」というだけではなく、なぜ他動では動くのに自動では動かないのかを医学的に説明できる資料を揃えます。

戦略 3

診断書作成前に測定項目を確認する

必要な主要運動・参考運動、健側・患側、自動・他動が正しく測定されているか確認します。一度作成された診断書を後から修正するより、最初から必要な測定を正確に行う方が合理的です。

まとめ:原則は「他動」。ただし障害の原因によって「自動」が決定的に重要になる

この記事のポイントを整理します。

  • ①自動可動域とは患者自身の力で関節を動かせる範囲、他動可動域とは医師等が外から力を加えて動かせる範囲です。
  • ②交通事故による関節機能障害の後遺障害認定では、原則として他動運動による可動域測定値が重要です。
  • ③他動可動域は、本人の筋力等の影響を受けにくく、関節そのものがどこまで動くのかを評価するために用いられます。
  • ④自動可動域が健側の2分の1以下であっても、他動可動域が2分の1を超えている場合には、直ちに10級になるわけではありません。
  • ⑤一方、末梢神経損傷による弛緩性麻痺など、他動では動くものの本人自身では動かせない場合には、自動可動域を参考に後遺障害を認定する必要があります。
  • ⑥完全弛緩性麻痺またはこれに近く、自動可動域が健側の10%程度以下となる場合には、「関節の用を廃したもの」として8級が問題になることがあります。
  • ⑦耐え難い疼痛によって自動運動が困難であることが医学的に判断される場合にも、他動値だけではなく自動値を参考とする場合があります。
  • ⑧自動と他動に差があるだけでは足りず、その差が神経麻痺・疼痛・筋損傷など何によって生じているのかを医学的に説明することが重要です。
  • ⑨可動域は健側・患側双方について、必要な主要運動・参考運動を正確に測定する必要があります。
  • ⑩神経麻痺が疑われる場合には、後遺障害診断書だけでなく、画像、筋力、神経学的所見などを含めて障害の原因を立証することが重要です。

後遺障害認定で問題になるのは、「何度動いたか」だけではありません。より重要なのは、「なぜその角度までしか動かないのか」です。骨折によって関節そのものが拘縮しているのであれば、他動可動域が重要になります。一方、神経麻痺によって本人自身では動かせないのであれば、他動では十分動いたとしても、それだけでは本人の障害を適切に表していません。

自動と他動の数値に大きな差がある場合には、「どちらの数値が有利か」から考えるのではなく、「この差を生じさせている医学的原因は何か」を確認することが、適切な後遺障害認定への第一歩です。

自動可動域と他動可動域の差が大きい方へ

交通事故による骨折や神経損傷後に、次のような場合には、示談前に可動域測定と障害原因を確認してください。

  • 自分では肩を上げられないが、医師が動かすと上がる
  • 手首を他人に動かしてもらえば動くが、自分では反らせない
  • 膝の自動可動域と他動可動域に大きな差がある
  • 後遺障害診断書に自動値しか書かれていない
  • 自動では10級相当なのに他動値を理由に12級となった

特に、末梢神経損傷、弛緩性麻痺、筋力低下、強い疼痛、腱・筋損傷などが疑われるケースでは、他動可動域だけでは障害の実態を十分に評価できない可能性があります。しかし、自動可動域を採用してもらうためには、「自分では動かない」という訴えだけではなく、その原因を裏付ける医学的資料が重要です。

症状固定や後遺障害診断書作成前に、次の点を整理し、必要に応じて交通事故・後遺障害に詳しい弁護士と確認することが重要です。

  • 健側・患側
  • 自動・他動
  • 主要運動・参考運動
  • 画像所見
  • 神経学的所見

※本記事は一般的な交通事故、関節可動域および後遺障害制度について解説するものであり、個別の法的・医学的アドバイスを目的とするものではありません。関節機能障害の等級は、受傷部位、可動域、測定方法、障害原因、画像所見、神経障害、疼痛、既往症、治療経過等によって個別に判断されます。具体的な測定・治療については担当医、後遺障害等級・損害賠償については交通事故に詳しい弁護士等へご相談ください。