監修 石田 大輔 (いしだ だいすけ)

名城法律事務所サテライトオフィス 代表

所属 / 愛知県弁護士会 (登録番号42317)

保有資格 / 弁護士

目次

「来月でリハビリの支払いを終了します」と言われても、その日が症状固定日になるわけではありません

交通事故で肩、肘、手首、股関節、膝、足首などを骨折し、手術や固定を経てリハビリを続けている途中で、相手方の保険会社から、「そろそろ治療を終了してください」「来月末で治療費の支払いを終了します」「事故から半年近く経っているので症状固定ではないでしょうか」などと連絡を受けることがあります。

しかし、まだ肩が十分に上がらない、膝が曲がらない、足首が固いなどの症状があり、リハビリによって可動域が改善しているのであれば、保険会社から終了を打診されたという理由だけで直ちに治療を終えるべきとは限りません。

特に骨折では、骨が癒合した後も、次のような状態が残り、一定期間リハビリを続ける必要があるケースがあります。

  • 関節拘縮
  • 筋力低下
  • 関節周囲の軟部組織の硬さ
  • 手術後の可動域制限
  • 歩行・日常生活動作の障害

重要なのは、「保険会社が治療費の直接支払いを終了する時期」と「医学的に治療効果が期待できなくなり、症状固定と判断する時期」は同じものではないという点です。

国土交通省は、自賠責保険・共済における症状固定について、「症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった時」と説明し、医師によって判断されるものとしています。したがって、骨折後のリハビリをいつまで続けるべきかは、事故から何か月経ったかだけではなく、「現在も医学的な改善が期待できるか」で判断する必要があります。

この記事では、交通事故による骨折後のリハビリについて、保険会社から打ち切りを打診された場合の対応から、症状固定を判断するポイント、治療継続の必要性を説明するための医証、可動域測定、打ち切り後の治療方法まで実務的に解説します。

  • 打ち切りを打診された場合の対応
  • 症状固定を判断するポイント
  • 治療継続の必要性を説明するための医証
  • 可動域測定で確認すること
  • 打ち切り後に治療を続ける方法

【最初に確認】「治療費打ち切り」「治療終了」「症状固定」は別の話

骨折のリハビリをめぐるトラブルでは、次の3つが混同されやすくなっています。

状態誰が判断・決定するか意味
保険会社による直接支払いの終了保険会社医療機関への治療費の直接払いを終了すること
医学的な治療・リハビリの終了主に医師医学的に治療を続ける必要性がなくなったと判断すること
症状固定医師の医学的判断が重要一般的な治療を続けても、それ以上の改善が期待できない状態

日本損害保険協会も、保険会社から医療機関への直接支払いは、被害者・医療機関・保険会社の合意に基づいて行われるサービスであると説明しています。つまり、保険会社が「○月末で病院への支払いを終了します」と通知した場合、それは基本的には「保険会社が医療機関へ直接支払う取扱いを終了する」という意味です。その連絡だけで医師が「症状固定」と診断したことになるわけではありません。

反対に、医師が「これ以上リハビリを続けても可動域の改善は期待できない」と医学的に判断している場合、保険会社からまだ治療費が支払われているからといって、治療期間を機械的に延ばせるものでもありません。重要なのは、保険会社との交渉より前に、現在の医学的な状態を確認することです。

症状固定とは「治った日」ではない

「症状固定」という言葉から「完全に治った状態」と考えてしまう人がいますが、意味は異なります。

例えば、交通事故で膝を骨折し、事故前は140度まで曲がっていた膝が、リハビリ後も100度までしか曲がらないという状態が残ったとします。その後もリハビリを続けることで、100度 → 110度 → 120度と改善しているのであれば、医学的にはまだ改善途中である可能性があります。

一方、120度 → 120度 → 121度 → 120度という状態が長く続き、画像所見や治療経過から今後大きな改善が期待できないと判断されれば、症状固定を検討する段階に入ります。

国土交通省も、交通事故による傷害に対する治療効果がこれ以上期待できず、将来も回復が見込めない場合には、医師の判断を受けて後遺障害に関する手続きへ移ることができると説明しています。つまり症状固定では、「症状が残っているか」ではなく、「治療によってこれ以上改善する可能性があるか」が重要になります。

骨折のリハビリは何か月まで?一律の期間はありません

交通事故相談では、「骨折なら6か月で症状固定ですか?」「半年を超えたらリハビリは認められませんか?」という質問がよくあります。しかし、すべての骨折について一律に「事故から○か月で症状固定」というルールはありません。

骨折といっても、次のような要素によって回復期間は大きく異なるためです。

  • 骨折した部位
  • 骨折の程度
  • 関節内骨折かどうか
  • 転位の程度
  • 手術の有無
  • プレート・スクリュー等の固定方法
  • 荷重開始時期
  • 年齢
  • 合併損傷
  • リハビリ経過

例えば、比較的単純な骨折と、関節面にまで骨折が及んだ脛骨高原骨折では、同じ「骨折」でもリハビリの意味がまったく違います。また、大腿骨頸部骨折、上腕骨近位端骨折、橈骨遠位端骨折、足関節果部骨折などでも、それぞれ問題となる関節や機能が異なります。したがって、「事故から○か月経った」という期間だけを理由に症状固定を判断することは適切ではありません。

「運動器リハビリは150日」という数字の意味

骨折後のリハビリについて調べていると、「運動器リハビリは150日まで」という情報を目にすることがあります。しかし、この150日を「交通事故では150日で症状固定になる」という意味に理解するのは誤りです。

厚生労働省の診療報酬制度では、運動器リハビリテーション料について、原則として発症、手術、急性増悪または最初に診断された日から150日を標準的な算定日数としています。ただし、医学的に治療を継続することで状態の改善が期待できる患者などについては、一定の条件の下で標準的算定日数を超えてリハビリを行える仕組みもあります。

150日

診療報酬上の標準的算定日数

健康保険の運動器リハビリテーション料について、原則として発症・手術等から150日を標準とする算定上の目安です。条件を満たせば、これを超えてリハビリを行える仕組みもあります。

症状固定

個々の患者について医学的に判断

交通事故における症状固定は、患者ごとに医学的に判断されるものです。150日が経過したからといって、自動的に症状固定になるわけではありません。

保険制度上の数字と、個々の患者について医学的に判断する症状固定を混同しないことが重要です。

【重要】保険会社から打ち切りの連絡が来たら最初に確認する5項目

保険会社からリハビリ終了を打診された場合、感情的に「まだ痛いので延長してください」と主張するだけでは十分ではありません。次の5項目を確認します。

① 主治医は治療継続が必要と考えているか

最も重要です。「本人がまだ通いたい」という希望と、「医学的にリハビリを続ければ改善が期待できる」という医師の判断は別です。まず主治医に、「現在もリハビリによる改善は期待できますか」「医学的には、まだ症状固定ではないと考えますか」と確認します。

② 可動域は実際に改善しているか

骨折後の関節機能障害では、可動域の推移が重要な資料になります。例えば、次のように改善が続いていれば、「リハビリを継続することで機能改善が認められている」ことを説明しやすくなります。

測定時期患側の可動域
1月70度
2月85度
3月100度
4月112度

一方、数か月にわたって数値がほとんど変化していない場合には、症状固定を検討する要素になります。

③ 画像上の骨癒合・関節状態はどうなっているか

X線、CT、MRIなども重要です。例えば、次のように医学的に治療を継続する理由が画像上確認できる場合があります。

  • 骨癒合が進行途中である
  • 関節面に変形が残っている
  • 手術後の状態を経過観察している

日本整形外科学会も、骨折の診断ではX線画像などによる評価が重要であることを説明しています。

④ リハビリの目的が明確になっているか

単に「リハビリ継続」とカルテに書かれているだけではなく、次のように目的が具体的になっていることが重要です。

  • 膝関節屈曲の改善
  • 足関節背屈制限の改善
  • 筋力回復
  • 杖なし歩行の獲得
  • 職場復帰に必要な階段昇降能力の改善

⑤ 今後どの程度の改善が見込まれているか

「とりあえずあと3か月」ではなく、何をどこまで改善するために、どの程度の期間リハビリが必要なのかを確認します。治療継続の必要性を説明するうえでは、次の流れが重要です。

現在の状態
↓
これまでの改善
↓
今後期待できる改善
↓
そのために必要な治療内容・期間

保険会社がリハビリ終了を打診する主な理由

保険会社からの終了打診は、必ずしも「被害者に治療を受けさせたくない」という理由だけで行われるわけではありません。保険会社は治療経過や診療内容を確認しながら、交通事故との相当因果関係がある治療費として支払う範囲を判断します。日本損害保険協会も、一般的に治療終了が考えられる時期には保険会社から症状固定や示談手続きについて連絡が行われることがあると説明しています。特に次のような場合には、終了の打診が行われやすくなります。

1

事故から一定期間が経過している

時間の経過は一つの判断材料になります。ただし、それだけで医学的な症状固定が決まるわけではありません。

2

治療内容が長期間変わっていない

毎回ほぼ同じ治療だけが続いており、明確な改善が確認できないケースです。

3

医療記録から改善状況が分かりにくい

患者本人は「少しずつ良くなっている」と感じていても、診断書や医療照会ではその経過が伝わっていない場合があります。

4

通院頻度が極端に少ない

長期間ほとんど受診していなければ、本当に継続的な治療が必要なのか問題になることがあります。

5

医師の回答が「経過観察」だけになっている

治療の具体的な目的や今後の改善見込みが書かれていない場合、治療継続の必要性が伝わりにくくなります。

つまり、重要なのは単に「延長をお願いする」ことではなく、治療を継続する医学的理由を資料化することです。

【実務】治療継続を求めるなら「医証」を作る

保険会社から打ち切りを打診されたときに最も重要になるのが、主治医の医学的な意見です。ただし、「リハビリ継続が必要です」という一文だけではなく、できるだけ具体的な内容が望まれます。厚生労働省の労災診療費に関する資料でも、標準的算定日数を超えてリハビリを継続するケースでは、継続すべき医学的所見として、現在の運動制限、これまでの改善、今後期待される効果、必要となるリハビリ内容などを具体的に記載する例が示されています。交通事故の任意保険との交渉でも、この考え方は参考になります。

医師の意見に入っていると有用な事項

  • 正確な傷病名
  • 骨折部位
  • 手術内容
  • 現在の画像所見
  • 現在残っている症状
  • 患側・健側の可動域
  • これまでの可動域の改善経過
  • 現在実施しているリハビリ内容
  • リハビリによって現在も改善がみられること
  • 今後期待される改善内容
  • 治療継続が必要と考えられる期間

例えば、「右膝に疼痛あり。リハビリ継続」だけよりも、「脛骨高原骨折術後。右膝屈曲は前月90度から現在110度まで改善しており、現在も可動域改善を認める。階段昇降およびしゃがみ込みに制限があり、可動域訓練・筋力訓練を継続することでさらなる機能改善が期待される」というように、次のようにつながっている方が、治療継続の医学的必要性を説明しやすくなります。

現在の障害
↓
改善経過
↓
リハビリの効果
↓
今後の見込み

医師には「保険会社を説得してください」と頼まない

ここは実務上重要です。医師に、「保険会社が治療を打ち切ると言っているので、あと3か月必要と書いてください」と依頼することはおすすめできません。医師は保険交渉のために診断するわけではなく、患者の医学的状態を判断する立場だからです。確認すべきなのは、次のような医学的事項です。

  • 先生の医学的判断として、まだ改善の余地がありますか
  • 現在の可動域はどの程度でしょうか
  • リハビリを続けることで、どの機能の改善が期待できますか
  • 症状固定と判断する段階でしょうか

そして、その判断を診断書や保険会社からの医療照会回答等に正確に反映してもらうことが重要です。保険会社に対抗するための文章を書いてもらうのではなく、医学的事実を正確に記録してもらう。これが基本です。

可動域の「推移」を記録することが重要

骨折後に肩、肘、手首、股関節、膝、足首などの動きが制限されている場合、症状固定の判断でも後遺障害認定でも可動域が重要になります。特に確認したいのは、次の点です。

  • 患側の可動域
  • 健側の可動域
  • 自動運動
  • 他動運動
  • 測定した運動方向
  • 過去の測定値との比較
改善が続いている

リハビリの効果あり

1月 80度 → 2月 95度 → 3月 110度 → 4月 120度

頭打ち

改善が乏しい

1月 115度 → 2月 117度 → 3月 116度 → 4月 116度

と改善しているのか、頭打ちになっているのかでは、医学的な意味が異なります。リハビリ継続の必要性を考えるときは、一回だけの測定値ではなく、「可動域がどのように推移しているか」を確認することが重要です。

「まだ痛い」だけではリハビリ継続の理由として十分でない場合がある

患者本人にとって痛みは非常に重要な症状です。しかし、保険会社との治療費の問題や後遺障害認定では、「まだ痛い」という自覚症状だけでは判断できないことがあります。骨折後のリハビリでは、次のような点を総合的に確認します。

  • 骨癒合状態
  • 関節拘縮
  • 可動域
  • 筋力
  • 画像所見
  • 歩行能力
  • 日常生活動作
  • 治療による改善経過

したがって、「痛いから治療を続けたい」から一歩進んで、「現在どの機能が障害され、リハビリによって何が改善しているのか」を医学的に整理することが重要です。

【交渉方法】保険会社には「治療希望」ではなく「医学的必要性」を伝える

保険会社から「今月末で治療費を終了します」と連絡された場合には、まず理由を確認します。そのうえで主治医が治療継続を必要と判断しているのであれば、次の点を整理して伝えます。

  • 主治医はまだ症状固定と判断していないこと
  • 現在も可動域等の改善が続いていること
  • 継続するリハビリ内容
  • 医師が考えている治療期間
  • 必要であれば医療照会や診断書で確認してもらいたいこと

重要なのは、「納得できないので延長してください」という交渉ではありません。医学的根拠を中心に伝えます。

📄

「主治医からは、現時点では症状固定ではなく、可動域が改善しているためリハビリ継続が必要と説明されています。直近3か月の可動域も改善しています。必要であれば主治医への医療照会で治療継続の必要性をご確認ください」

日本損害保険協会も、引き続き治療費の支払いを求める場合には、これまでの治療内容、経緯、けがの回復状況などをもとに治療継続の必要性を説明し、担当医の見解も踏まえて保険会社と協議することを案内しています。

【認められやすい医証】「あと何か月」よりも改善目標を書く

治療継続の必要性を説明するとき、「あと2か月必要」という期間だけが書かれていても、なぜ必要なのかが分かりません。むしろ、次の構造の方が重要です。

現在:右膝屈曲100度
↓
目標:日常生活動作改善に必要な可動域の獲得
↓
治療:関節可動域訓練・筋力訓練
↓
経過:直近2か月でも改善傾向あり
↓
見込み:一定期間の継続によりさらなる改善が期待できる

症状固定は単なる日数の問題ではなく、「医学的な治療効果が残っているか」という問題だからです。

骨折後に特にリハビリ継続の検討が必要になるケース

次のような骨折では、関節機能への影響が大きく、個別に慎重な判断が必要になります。

肩

上腕骨近位端骨折・肩甲骨骨折・骨折脱臼など

骨癒合後も肩関節の可動域制限が残ることがあります。「骨はくっついたから終了」ではなく、肩の屈曲や外転などの回復状況を確認します。

肘

肘頭骨折・橈骨頭骨折・上腕骨遠位端骨折など

屈曲・伸展制限が残ることがあります。肘は拘縮すると日常生活への影響が大きいため、可動域の推移を確認することが重要です。

手首

橈骨遠位端骨折など

手関節の屈曲・伸展だけでなく、前腕の回内・回外にも制限が残ることがあります。

股関節

大腿骨頸部骨折・寛骨臼骨折など

歩行能力や股関節可動域に影響が残る場合があります。日本整形外科学会も、寛骨臼骨折は股関節の関節内骨折であると説明しています。

膝

脛骨高原骨折・膝蓋骨骨折・大腿骨遠位端骨折など

膝関節面の損傷や拘縮が問題になることがあります。

足首

足関節果部骨折など

歩行できるようになっていても背屈・底屈制限が残る場合があります。

これらのケースでは、骨が癒合したことと、関節機能が回復したことを分けて考える必要があります。

【打ち切られやすいパターン】治療記録上の問題にも注意

パターン1

通院が途切れている

数週間から1か月以上ほとんど通院していない場合、「治療が本当に必要だったのか」という問題が生じる可能性があります。医師の指示に従った適切な頻度で通院することが重要です。

パターン2

長期間、改善状況が記録されていない

「疼痛あり。リハビリ継続」だけが数か月続いている場合、外部から治療効果を確認しにくくなります。

パターン3

可動域を測定していない

関節機能障害が問題になっているにもかかわらず、具体的な角度が測定されていないケースです。

パターン4

整形外科をほとんど受診していない

リハビリだけを受け、医師の診察がほとんどないと、現在の状態や治療方針が医学的に整理されない場合があります。

パターン5

医学的に改善が止まっている

数か月にわたり可動域や機能に変化がなく、医師も改善が難しいと考えているのであれば、治療期間を延ばすより症状固定と後遺障害申請を検討すべき場合があります。

【重要】無理にリハビリ期間を延ばせば良いわけではない

「長く通院すれば慰謝料が増える」「後遺障害を取るためには長期間通院した方が良い」という考えだけで、医学的必要性のない治療を続けるべきではありません。治療費として賠償の対象になるためには、事故との因果関係だけでなく、その治療の必要性・相当性が問題になります。また、症状固定の時期を不合理に遅らせても、後からその全期間の治療費が当然に認められるわけではありません。

⚠️

重要なのは、必要な治療は必要な期間しっかり受ける。改善が止まったら適切な時点で後遺障害の評価へ移る。ということです。

保険会社の直接支払いが終了しても治療を続ける方法はある

主治医が治療継続を必要と判断しているにもかかわらず、保険会社との協議がまとまらず、医療機関への直接支払いが終了することがあります。その場合でも、医学的に必要な治療そのものが禁止されるわけではありません。選択肢としては、次のようなものがあります。

  • 健康保険を利用して治療を継続する
  • 自費でいったん立て替える
  • 自分の自動車保険の人身傷害保険等を確認する

交通事故による負傷でも、業務上・通勤災害でない場合には健康保険を利用できます。協会けんぽも、第三者による交通事故で負傷した場合に健康保険を利用できることを案内しており、その場合は「第三者行為による傷病届」の提出が必要です。健康保険を使用すれば、いったん全額を自己負担する場合と比較して、当面の経済的負担を抑えられる可能性があります。ただし、業務中・通勤中の交通事故では労災保険との関係がありますので、健康保険を使用できるケースと区別する必要があります。

自費で治療を続ければ後から必ず請求できるわけではない

ここも注意が必要です。保険会社からの直接支払いが終了した後に自己負担でリハビリを続けた場合、「領収書を持っていれば必ず後から全額払ってもらえる」わけではありません。後日、その治療が交通事故と因果関係があるか、医学的に必要だったか、症状固定後の治療ではなかったか、などが争われる可能性があります。日本損害保険協会も、治療継続について保険会社との協議がまとまらない場合には、被害者が治療費を立て替え、後日その支払いについて協議する場合があると説明しています。

そのため自己負担で治療を続ける場合には、次の資料を保存しておくことが重要です。

  • 主治医の治療継続意見
  • 診断書
  • 可動域測定記録
  • 画像資料
  • 領収書
  • 診療明細書

症状固定後の治療費は原則として別問題になる

症状固定後も、「リハビリをすると少し楽になる」「硬くならないように通いたい」というケースがあります。しかし、自賠責保険では、症状固定後の治療費について原則として傷害部分の治療費として認定されません。国土交通省も、後遺障害症状固定後の治療費については自賠責保険では認定されないと案内しています。

したがって、治療継続なのか、症状固定後の維持的なリハビリなのかを整理することが重要です。症状固定後に残った障害については、後遺障害等級認定を受け、逸失利益や後遺障害慰謝料などの問題として評価することになります。

【症状固定前に確認】後遺障害診断書の準備も同時に進める

骨折後に可動域制限が残っている場合、治療終了だけを考えるのではなく、その後の後遺障害申請も考えておく必要があります。特に確認したいのは、次の点です。

  • 患側と健側の可動域
  • 必要な運動方向がすべて測定されているか
  • 骨折部位
  • 骨癒合後の変形
  • 関節面の状態
  • 手術内容
  • 痛みやしびれ
  • 日常生活への支障

症状固定後になって初めて、「健側を測っていなかった」「肩の必要な方向を測定していなかった」「CT画像を提出していなかった」と気付くと、後遺障害申請に影響する可能性があります。したがって、保険会社から打ち切りを打診された時期は、単なる治療費交渉のタイミングではなく、後遺障害申請の準備を始めるタイミングでもあります。

保険会社との電話だけで終わらせない

治療費打ち切りについて重要なやり取りをした場合には、次のような点を記録しておくことをおすすめします。

  • 連絡日
  • 担当者名
  • 保険会社から言われた内容
  • 打ち切り予定日
  • 打ち切り理由
  • こちらから伝えた主治医の見解
📄

「9月10日、担当者A氏より『9月末で直接支払い終了予定』との連絡。理由は治療期間が長期化しているためとの説明。主治医は現在も可動域改善中として治療継続を予定している旨を伝えた」

この程度でも構いません。後で「誰が何を言ったのか分からない」という状態になることを防げます。

【やってはいけない対応】打ち切りを言われたときの5つの注意点

①

保険会社から言われたので、その日に通院をやめる

主治医の医学的判断を確認せず治療を中断すると、必要なリハビリを受けられなくなる可能性があります。

②

逆に、医師が症状固定と考えているのに通院だけ続ける

通院期間を延ばすこと自体を目的にしてはいけません。

③

急に通院回数だけ増やす

打ち切りの連絡後に医学的理由なく通院頻度を急増させると、治療の必要性について疑問を持たれる可能性があります。

④

医師に結論を指定して診断書を書いてもらおうとする

「あと3か月必要と書いてください」ではなく、医学的状態について医師自身の判断を記載してもらうことが重要です。

⑤

示談を急いで成立させる

骨折後の可動域制限が残っている場合、適切な後遺障害等級が確定する前に示談することには慎重になる必要があります。一度示談が成立すると、原則として後から追加請求することは難しくなります。

【実務チェックリスト】リハビリ打ち切りを打診されたら確認する資料

医療機関で確認するもの

  • 診断書
  • X線画像
  • CT・MRI画像
  • 手術記録
  • リハビリ記録
  • 関節可動域測定値
  • 患側・健側双方の測定値
  • 今後の治療計画
  • 医師の症状固定に関する見解

保険会社との関係で確認するもの

  • 直接支払い終了予定日
  • 打ち切りの理由
  • 医療照会を実施したか
  • 主治医の意見を確認しているか
  • 延長判断に必要な資料は何か

自分で残しておくもの

  • 症状の変化
  • できるようになった動作
  • まだできない動作
  • 仕事上の支障
  • 日常生活上の支障
  • 保険会社との連絡記録

これらを一度整理すると、「本当にまだリハビリを続ける段階なのか」「症状固定して後遺障害申請へ進む段階なのか」を判断しやすくなります。

弁護士へ相談するタイミング

すべてのリハビリ打ち切り案件で弁護士が必要なわけではありません。しかし、次のようなケースでは早めに相談する意味があります。

  1. 主治医は治療継続が必要としているのに保険会社が打ち切ろうとしている
  2. 関節可動域がまだ改善している
  3. 手術を伴う重い骨折である
  4. 関節内骨折である
  5. 人工関節・人工骨頭への置換がある
  6. 可動域が後遺障害等級の境界付近にある
  7. 保険会社から症状固定を強く勧められている
  8. 後遺障害申請を予定している
  9. 自費で治療を続けるべきか迷っている
  10. すでに治療費の直接支払いが終了している

特に骨折後の可動域障害では、いつ症状固定するかと、症状固定時にどの程度の可動域制限が残っているかが後遺障害認定に影響する可能性があります。そのため、示談交渉が始まってからではなく、治療終了・症状固定を検討する段階で資料を確認することが重要です。

まとめ:リハビリ終了は「何か月経ったか」ではなく「まだ改善するか」で判断する

この記事のポイントを整理します。

  • ①保険会社からリハビリ終了を打診されても、その日が自動的に症状固定日になるわけではありません。
  • ②保険会社による医療機関への直接支払いの終了と、医学的な治療終了・症状固定は区別して考える必要があります。
  • ③症状固定とは、症状が安定し、医学上一般に認められた治療を行ってもこれ以上の治療効果が期待できない状態をいい、医師の医学的判断が重要です。
  • ④骨折について「事故後○か月で症状固定」という一律のルールはありません。骨折部位、手術、画像所見、可動域、リハビリ経過などを個別に確認します。
  • ⑤運動器リハビリテーションの「150日」は診療報酬上の標準的算定日数であり、そのまま交通事故における症状固定期限を意味するものではありません。
  • ⑥治療継続を求める場合には、「まだ痛い」という訴えだけでなく、可動域の改善、画像所見、治療内容、今後期待される改善などを医学的に整理することが重要です。
  • ⑦医師の意見には、現在の症状、客観的所見、これまでの改善、リハビリ内容、今後の改善見込みなどを具体的に記載してもらうことが重要です。
  • ⑧保険会社の直接支払いが終了しても、健康保険等を利用して医学的に必要な治療を継続できる場合があります。
  • ⑨一方、医学的に改善が頭打ちになっている場合には、無理に治療期間を延ばすのではなく、適切な時点で症状固定し、後遺障害申請へ進むことを検討します。
  • ⑩骨折後に可動域制限が残る場合には、症状固定前から患側・健側の測定値、画像、手術記録、リハビリ経過などを整理しておくことが重要です。

保険会社から「今月末で治療費を終了します」と言われると、「もうリハビリを受けられない」と思ってしまうかもしれません。しかし、まず確認するべきなのは保険会社の判断ではなく、主治医が現在の骨折・関節機能についてどう評価しているかです。

まだ可動域が改善しており、医学的にも治療効果が期待できるのであれば、その事実を医療記録や診断書等で整理したうえで保険会社と協議します。反対に、可動域の改善が頭打ちとなり、主治医もこれ以上の改善は難しいと考えているのであれば、症状固定を必要以上に遅らせるべきではありません。

骨折後のリハビリで最も重要なのは、「何か月通ったか」ではなく、「何がどこまで改善し、これから何が改善する見込みなのか」を医学的に確認することです。

骨折後のリハビリ打ち切りを打診されている方へ

保険会社からリハビリ終了を打診され、まだ肩・肘・手首・股関節・膝・足首などが事故前のように動かない場合には、終了に同意する前に現在の医学的状態を確認してください。特に、次のようなケースでは、治療終了前の対応がその後の後遺障害認定や損害賠償に影響する可能性があります。

  • 可動域が現在も改善している
  • 主治医が治療継続を必要と考えている
  • 関節内骨折や手術を伴っている
  • 後遺障害が残る可能性がある
  • 症状固定の時期について保険会社と意見が異なる

症状固定後になってから、「もっとリハビリを続けるべきだった」「可動域を測っていなかった」「主治医の治療継続意見を保険会社へ伝えていなかった」と気付いても、事故直後からの治療経過を後から作り直すことはできません。保険会社から打ち切りを打診された段階で、治療記録、画像所見、可動域、主治医の見解を整理し、必要に応じて交通事故・後遺障害に詳しい弁護士へ相談することが重要です。

※本記事は一般的な交通事故、治療費、リハビリ、症状固定および後遺障害制度について解説するものであり、個別の法的・医学的アドバイスを目的とするものではありません。適切なリハビリ期間や症状固定時期は、骨折部位、手術内容、画像所見、合併損傷、可動域、治療経過、既往症などによって異なります。具体的な治療方針については担当医、治療費・後遺障害・損害賠償については交通事故に詳しい弁護士等へご相談ください。