監修 石田 大輔 (いしだ だいすけ)

名城法律事務所サテライトオフィス 代表

所属 / 愛知県弁護士会 (登録番号42317)

保有資格 / 弁護士

目次

可動域測定の「数分」が、後遺障害8級・10級・12級の判断に影響することがあります

交通事故で肩、肘、手首、股関節、膝、足首などを骨折し、治療を続けても関節の動きが元に戻らなかった場合、後遺障害等級認定では「関節可動域」が重要になります。

例えば、次のような症状が挙げられます。

  • 「肩が事故前の半分程度までしか上がらない」
  • 「膝を最後まで曲げられない」
  • 「足首の背屈・底屈が大きく制限されている」

といったケースです。関節機能障害では、一定の条件を満たすと8級、10級、12級などの後遺障害が問題になります。ところが、症状固定の日に初めて本格的な可動域測定を行い、

  • 「思っていたより大きい数字が診断書に書かれていた」
  • 「患側しか測っていなかった」
  • 「自分で動かした角度と、医師が動かした角度が混在していた」
  • 「屈曲は測ったが、もう一つの主要運動が測定されていなかった」

ということがあります。後遺障害診断書が作成された後になって、「この測り方で本当に正しいのでしょうか」と相談されるケースもあります。もちろん、弁護士が病院へ同行すれば後遺障害等級が上がるというものではありません。

また、弁護士が医師へ、「10級になる数字にしてください」「この角度で書いてください」などと指示することはできませんし、してはいけません。後遺障害診断書は、あくまで医師が医学的判断に基づいて作成する診断書だからです。しかし、どの関節を、どの方向について、どの方法で測る必要があるのかを事前に整理し、必要な測定や医学的事実が診断書から漏れないよう確認するという意味では、弁護士や後遺障害に詳しい医療スタッフが関与する意味は大きい場合があります。

厚生労働省の関節機能障害の認定基準では、関節可動域は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が定める方法に準拠して測定し、原則として健側と比較し、原則として他動運動による値を使用するとされています。角度計を使用し、通常5度刻みで測定することも定められています。つまり、ただ「肩を上げてください」と言って数字を書くものではありません。

この記事では、骨折後の後遺障害診断書作成時に、弁護士や医療スタッフが病院へ同行する意味、可動域測定で確認すべきポイント、医師との適切な連携方法、同行が必要なケースと不要なケース、当サイトで想定する同行サポートの具体的な流れまで解説します。

【最初に確認】
弁護士が同行する目的は「等級を上げてもらうこと」ではありません

最も重要な点から整理します。病院同行の目的は、医師に特定の後遺障害等級を書いてもらうことではありません。後遺障害等級を決定するのは医師ではありません。

医師が行うのは、以下の項目を確認します。

  • 傷病名
  • 症状
  • 画像所見
  • 検査結果
  • 可動域
  • 今後の見通し

など、医学的事実を診断書へ記載することです。その医学資料をもとに後遺障害等級が審査されます。後遺障害診断書についても、最終的に作成するのは医師です。交通事故実務を扱う法律事務所でも、診断書は医師自身の医学的見解に基づいて作成されるべきであり、弁護士が内容を指示するものではないと説明されています。

したがって、同行の役割は、「10級になるようお願いします」ではなく、「現在の症状について、必要な医学的評価が漏れなく行われているか確認する」ことです。この違いは非常に重要です。

【一覧】弁護士・医療スタッフが同行する主な目的

目的 同行時に確認すること
測定項目の漏れ防止 必要な主要運動・参考運動が測定されているか
健側との比較 患側だけでなく健側も測定されているか
測定方法の確認 自動・他動の区別、肢位、角度計の使用
医学的原因の整理 骨折、拘縮、変形、神経麻痺等との整合性
診断書記載漏れの防止 画像所見、手術、可動域、症状等が反映されているか
医師への情報提供 後遺障害認定で必要となる医学的事実を質問形式で確認
誤解の防止 患者・医師・弁護士間で認識がずれていないか
作成後確認 診断書の測定値・左右・単位等に誤記がないか

重要なのは、弁護士が医学的判断をすることではなく、法的評価に必要となる医学的情報が何かを理解し、医師に確認することです。

なぜ可動域測定がそれほど重要なのか

骨折後の関節機能障害では、可動域が後遺障害等級に直接影響することがあります。例えば下肢の股関節・膝・足関節では、関節の用を廃したもの→8級7号関節の機能に著しい障害を残すもの→10級11号関節の機能に障害を残すもの→12級7号という等級があります。一般的には、主要運動が健側の2分の1以下→10級相当主要運動が健側の4分の3以下→12級相当が基本的な判断基準になります。

厚生労働省の基準でも、障害を残した関節の可動域を原則として健側と比較し、制限の程度を評価するとされています。例えば、健側120度、患側60度なら、60÷120=50%です。一方、患側65度なら、65÷120=約54%となります。

数度の違いだけで直ちに等級が変わるとは限りませんが、等級の境界付近では測定方法や測定対象となる運動方向が非常に重要になります。

可動域は「医師が見た感じ」で測るものではない

日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会は、共通した方法で関節可動域を評価できるよう「関節可動域表示ならびに測定法」を定めています。2022年にも改訂されています。測定では、以下の項目を確認します。

  • 基本肢位
  • 基本軸
  • 移動軸
  • 測定肢位
  • 注意点

などが部位ごとに定められています。また、厚生労働省の障害認定基準では、以下の項目を確認します。

  • 角度計は十分な長さの柄が付いたものを使用する
  • 通常5度刻みで測定する
  • 基本軸と移動軸を適切に設定する
  • 必要に応じて異なる測定肢位を使った場合は明記する

といった方法が示されています。したがって、「だいたい90度くらいですね」という目測だけで後遺障害診断書へ記載するのは望ましくありません。

【重要】原則は「他動可動域」です

可動域には、自動可動域と、他動可動域があります。自動可動域とは、患者本人が自分の筋力で関節を動かせる範囲です。他動可動域とは、医師等が外から力を加えて動かした場合の可動範囲です。

関節機能障害の評価では、原則として他動運動による測定値を使います。厚生労働省も、関節可動域は他動でも自動でも測定できるものの、原則として他動値を表記すると定めています。例えば、以下の項目を確認します。

  • 健側140度
  • 患側自動60度
  • 患側他動100度

という場合、単純に自動60度を使って「健側の2分の1以下」と判断するわけではありません。原則として他動100度を基準に検討します。

ただし麻痺などでは「自動可動域」が重要になる

原則が他動だからといって、すべて他動値だけで判断するわけではありません。例えば末梢神経損傷によって弛緩性麻痺があり、医師が動かせば関節は動く、しかし本人自身では動かせないという場合があります。この状態を他動値だけで評価すると、「関節は正常に近く動く」ということになってしまいます。

厚生労働省の基準では、このように他動値を採用することが適切でない場合には、自動可動域を参考として認定するとしています。また、関節を動かすと耐え難い疼痛が生じるため自動では動かせないことが医学的に確認される場合も例示されています。つまり同行時には、「他動で測ってください」と言えば終わりではありません。

なぜ動かないのかまで確認する必要があります。

弁護士が可動域を測るわけではありません

病院同行という表現から、「弁護士が横から角度計を見てチェックする」「医師の測定方法を採点する」というイメージを持つかもしれません。しかし、基本的な役割は違います。測定するのは医師・理学療法士等の医療従事者です。

弁護士は医学的測定を代行しません。同行する弁護士や医療スタッフの役割は、以下の項目を確認します。

  • 必要な項目を事前に整理する
  • 測定結果を確認する
  • 医学的原因について必要な質問を行う
  • 後遺障害診断書へ反映されるべき事実を確認する

といったものです。医療行為へ介入するのではなく、医学的事実と後遺障害実務の間をつなぐという位置付けです。

【同行のメリット①】必要な関節運動の「測り忘れ」を防ぎやすい

肩や股関節には複数の主要運動があります。例えば股関節では、屈曲・伸展、外転・内転などが問題になります。肩関節も同様です。

しかし患者本人は、「肩が上がらない」という感覚しか持っていないことがあります。そのため診察でも、肩の屈曲だけを確認して終了ということが起こる可能性があります。後遺障害認定では、部位によって複数の主要運動・参考運動が評価対象になるため、事前に必要な項目を確認しておくことが重要です。

同行前に、以下の項目を確認します。

  • どの関節を
  • どの方向で
  • 患側・健側のどちらを
  • 自動・他動のどちらで
  • 測定する必要があるのか

を整理しておけば、必要な情報の漏れを防ぎやすくなります。

【同行のメリット②】「患側しか測っていない」を防ぎやすい

関節可動域制限の評価では、原則として健側との比較を行います。例えば患側90度でも、健側120度なら75%、健側160度なら約56%です。患側の数字だけでは評価できません。

厚生労働省が医師向けに公開している資料でも、患側だけでなく健側も記載することが明記されています。しかし、「けがをした右足だけ測定した」ということは現実に起こり得ます。同行前の確認表で、患側、健側を両方明記しておくことで、このような漏れを防ぎやすくなります。

【同行のメリット③】自動・他動の混同を防ぐ

可動域表に、右90度、左160度とだけ書かれていた場合、それが自動なのか他動なのか分からないというケースがあります。原則として他動値を使うため、この区別は重要です。また麻痺等の例外で自動値を使った場合には、その理由を明確にする必要があります。

厚生労働省の医師向け資料でも、原則として他動運動で測定し、自動運動の場合には理由を記載するよう求めています。同行時には、「これは他動の測定値でしょうか」と確認できます。この一言だけでも、後から診断書を見て判断不能になることを避けられる可能性があります。

【同行のメリット④】測定値と画像所見・骨折形態をつなげられる

後遺障害で重要なのは数字だけではありません。例えば、右膝屈曲90度という結果があったとします。その原因が、脛骨高原骨折による関節面の変形なのか、長期固定による拘縮なのか、筋力低下なのか、神経障害、なのかによって医学的意味は違います。

同行前に、以下の項目を確認します。

  • X線
  • CT
  • MRI
  • 手術記録
  • リハビリ経過

などを確認しておけば、「現在の可動域制限は、先生としては骨折後の拘縮によるものと考えられますか」と具体的に確認できます。弁護士が医学的結論を決めるのではなく、医師自身の医学的判断を明確にしてもらうことが重要です。

【同行のメリット⑤】日常生活の支障を医師へ正確に伝えやすい

後遺障害診断書では、自覚症状や機能障害も重要です。しかし診察室では、

  • 「どうですか?」
  • 「まだ痛いです」
  • 「では様子を見ましょう」

という短いやり取りだけで終わることがあります。患者本人も緊張して、以下の項目を確認します。

  • 階段がつらい
  • 正座できない
  • 靴下を履けない
  • 長距離歩行できない
  • 仕事でしゃがめない

といった重要な情報を伝え忘れることがあります。同行前に日常生活・仕事上の支障を整理しておけば、必要な情報を簡潔に伝えやすくなります。後遺障害診断書についても、症状・検査所見・日常生活や就労への影響を具体的に反映させることが重要と説明されています。

【同行のメリット⑥】その場で医師へ質問できる

診断書を受け取った後で、「この数値はなぜこうなったのですか」「この運動方向は測定しなかったのですか」と聞こうとしても、次回予約が1か月後ということがあります。症状固定時に同行していれば、必要な医学的事項について、その場で確認できる場合があります。例えば、

  • 「現在も改善の余地がありますか」
  • 「症状固定という医学的判断でよいでしょうか」
  • 「可動域制限の原因はどのように考えていますか」
  • 「神経障害はありますか」
  • 「今後もこの可動域制限が残る可能性がありますか」

などです。もちろん、診療時間には限りがあります。そのため事前に病院・医師へ面談の趣旨を伝え、必要に応じて通常診察とは別に時間を確保してもらう方が望ましい場合があります。

実際、交通事故事件を扱う法律事務所でも、病院同行による医師面談を行い、認定上重要な点について質問し書面化する方法が実務上利用されています。

【重要】同行するだけで「測定ミスがゼロ」になるわけではない

ここは誤解しないようにしてください。弁護士が病院へ同行していても、以下の項目を確認します。

  • 医師の医学的判断
  • 患者のその日の状態
  • 疼痛
  • 筋緊張
  • 測定肢位

などによって、測定値には一定の幅が生じる場合があります。可動域測定は機械で完全自動測定するものではないためです。また、患者本人が期待していた数字と違ったからといって、「医師が測り間違えた」とは限りません。

したがって同行の目的は、自分に有利な数字を出すことではなく、定められた方法に沿って必要な項目を正確に評価してもらうことです。

実際に「測定方法」が争いになることはある

可動域測定の方法が後に争点になる例は実際にあります。労災の審査事例では、足関節可動域について、医療機関での測定値と別の医師による測定値が大きく異なり、どちらの測定方法・数値を採用するかが問題となった事案があります。審査では、健側の値が参考可動域から大きく乖離していることなども考慮して、別の測定結果が妥当と判断されました。

これは自賠責の個別案件そのものではありませんが、可動域は数字だけでなく、どのような方法で測定されたかが重要であることを示しています。症状固定から何か月も経ってから測定方法を争うより、最初から必要な方法で測定されている方が望ましいのは当然です。

【同行の効果】「後から修正」より「最初から正確」が重要

後遺障害診断書に誤りがあれば、医師へ修正を依頼できる場合があります。例えば、以下の項目を確認します。

  • 左右を逆に記載した
  • 60度を160度と誤記した
  • 患側と健側を取り違えた

といった明らかな誤記です。しかし、「測定時の姿勢そのものが違った」「必要な方向を測っていなかった」となると、単純な文字修正では済みません。

  • 再診
  • 再測定
  • 診断書再作成

が必要になる可能性があります。さらに症状固定から時間が経つほど、「症状固定時点の状態」を再現することは難しくなります。だからこそ、診断書完成後の修正より、症状固定時の測定を丁寧に行う方が重要なのです。

医師への依頼は「等級」ではなく「医学的事実」にする

同行時の伝え方にも注意が必要です。避けたいのは、「この患者は10級になるので、2分の1以下になるよう測ってください」という依頼です。これは適切ではありません。

代わりに、次のように医学的な確認をお願いします。

  • 「股関節の関節機能障害が残っているため、後遺障害診断書用に患側・健側の必要な可動域を測定していただけますでしょうか」
  • 「原則として他動可動域が必要と理解していますが、この患者について他動評価が適切か先生の医学的判断をお願いします」
  • 「神経麻痺がある場合、自動と他動の差についてもご評価いただけますでしょうか」

といった確認をします。つまり、結論ではなく、評価に必要な医学的事実をお願いするのが基本です。

医師に資料を持参するメリット

同行時には、必要に応じて簡潔な確認資料を用意します。例えば、以下の項目を確認します。

  • 傷病名
  • 骨折部位
  • 手術歴
  • 現在残っている症状
  • 可動域を確認したい関節
  • 必要な運動方向
  • 患側・健側
  • 自動・他動
  • 生活上の支障

などです。ただし、何十ページもの資料を診察室で突然渡すのは現実的ではありません。医師は診療を行っており、交通事故の等級認定だけに長時間を使えるとは限らないためです。

重要なのは、医師が短時間で医学的に必要なポイントを確認できる資料にすることです。

【同行サポート】当サイトで想定する基本的な流れ

当サイトの同行サポートでは、単に弁護士が病院へ一緒に行くだけではなく、原則として次のような流れで進めます。

STEP1 事前資料の確認

まず、以下の項目を確認します。

  • 診断書
  • 画像資料
  • 手術記録
  • 可動域記録
  • リハビリ記録
  • 過去の診療経過

などを確認します。そのうえで、以下の項目を確認します。

  • 後遺障害として問題となる部位
  • 不足している測定
  • 確認すべき医学的事項

これらを整理します。

STEP2 等級基準と必要な測定項目の確認

例えば肩であれば、以下の項目を確認します。

  • 屈曲
  • 外転・内転
  • 必要に応じて参考運動

を確認します。膝・足首・股関節などでも、対象となる主要運動を整理します。

STEP3 医療機関へ面談・同行について相談

弁護士が患者に同行する場合でも、医療機関側の了承が必要です。突然診察室へ弁護士が入るのではなく、原則として事前に、同行者がいること、目的が後遺障害診断書に必要な医学的事項の確認であることを伝えます。医療機関の方針や診療状況によって、同行・面談が認められない場合もあります。

STEP4 診察・測定への同行

当日は医師の診療を妨げないことを前提に、以下の項目を確認します。

  • 必要な可動域測定
  • 健側との比較
  • 自動・他動の区別
  • 医学的原因

などを確認します。弁護士・医療スタッフが測定値を決めることはありません。

STEP5 後遺障害診断書の確認

診断書完成後、以下の項目を確認します。

  • 左右が正しいか
  • 測定値が当日の値と一致しているか
  • 主要な傷病名が記載されているか
  • 画像・手術等の重要所見が反映されているか

などを確認します。明らかな誤記や記載漏れがあれば、医師へ医学的事実の確認・訂正をお願いすることがあります。

医療スタッフが同行する意味

案件によっては、弁護士だけでなく医療知識を持つスタッフの確認が有用なことがあります。特に、以下の項目を確認します。

  • 複数関節に障害がある
  • 神経損傷を伴う
  • 自動と他動の差が大きい
  • 人工関節がある
  • 複雑な骨折・関節内骨折

の場合です。弁護士は後遺障害認定や損害賠償の専門家ですが、医学そのものについて医師より専門的な判断を行う立場ではありません。一方で医療スタッフがいれば、以下の項目を確認します。

  • 測定項目
  • 肢位
  • 骨折後の機能
  • 医学用語

を整理しやすくなります。ただし医療スタッフも、主治医の診断・測定を代行したり、医学的結論を強制したりする役割ではありません。

【同行した方がよいケース】5つの目安

① 可動域が等級の境界付近にある

例えば健側120度に対して患側が60~70度付近など、2分の1の境界付近にあるケースです。測定方法や対象運動を正しく整理する重要性が高くなります。

② 人工関節・人工骨頭へ置換している

人工関節では通常の可動域障害とは異なる評価があります。人工関節の有無と可動域の双方を正確に確認します。

③ 自動と他動の差が大きい

神経麻痺、筋力低下、疼痛などの原因を確認する必要があります。

④ 複数の障害がある

例えば、以下の項目を確認します。

  • 大腿骨骨折
  • 膝可動域制限
  • 脚長差
  • 神経障害

などが併存している場合です。一つの症状だけに注目すると、別の障害を見落とす可能性があります。

⑤ 過去の可動域測定に疑問がある

リハビリ記録と後遺障害診断時の値が大きく異なる場合や、患側しか測っていない場合などです。

逆に「必ず同行が必要」ではありません

すべての骨折案件で弁護士が診察室へ行く必要はありません。例えば、以下の項目を確認します。

  • 主治医が後遺障害診断書の作成に慣れている
  • 必要な患側・健側の測定が適切に行われている
  • 測定方法に疑問がない
  • 画像・手術・症状が十分に診断書へ反映されている

というケースでは、診断書を作成してもらった後に弁護士が確認するだけで十分な場合もあります。同行には、以下の項目を確認します。

  • 医療機関との日程調整
  • 医師の時間
  • 弁護士の時間

が必要です。したがって、同行すること自体を目的にするのではなく、同行しなければ不足が生じる可能性がある案件かを判断することが重要です。

【やってはいけない対応】同行時の5つのNG

① 医師へ「○級にしてください」と言う

等級判断は医師の仕事ではありません。医学的事実を確認します。

② 測定中に患者本人が数字を調整しようとする

「今日は硬くしておいた方がよい」などと意識して動きを制限することは適切ではありません。普段どおりの状態で測定を受けます。

③ 医師の測定をその場で強く否定する

疑問がある場合でも、診療を妨げないよう医学的根拠を確認します。

④ 病院へ無断で弁護士を連れて行く

医療機関によっては診察同行にルールがあります。事前確認が基本です。

⑤ 診断書の文言を弁護士が作ってそのまま書かせる

診断書は医師の医学的判断に基づいて作成される必要があります。必要事項を質問・確認することと、診断内容を指示することは別です。

弁護士が同行すると医師との関係が悪くならないか

この点を心配する方もいます。実際、弁護士の同行を歓迎する医師ばかりではありません。医師によっては、以下の項目を確認します。

  • 診療時間が長くなる
  • 法的トラブルへ巻き込まれたくない
  • 診断内容へ介入されるのではないか

と警戒する場合があります。そのため重要なのが、同行目的を明確にすることです。例えば、「先生の医学的判断を変更していただく趣旨ではなく、後遺障害申請に必要な医学的事項について確認させていただきたい」と説明します。

他の交通事故実務でも、医師面談は必要に応じて行われる一方、弁護士が医師へ診断内容を指示しないことが重要とされています。

「医師への可動域測定依頼状」を使う方法もある

弁護士同行が難しい場合には、必要な測定項目を整理した依頼文を患者本人から医師へ渡す方法もあります。例えば、以下の項目を確認します。

  • 患側・健側の測定
  • 原則として他動測定
  • 必要な主要運動
  • 自動値を使用する場合の理由

などを簡潔に記載します。ただし、「この角度で書いてください」ではありません。当サイトでも、可動域測定について医師へお願いする際に使える「医師への可動域測定依頼状」テンプレートを用意しています。

同行が不要なケースでも、このような資料を使うことで確認事項を整理しやすくなります。

【症状固定前に確認】同行を検討するベストタイミング

理想的なのは、後遺障害診断書を書いてもらった後ではなく、症状固定を検討する段階です。なぜなら、診断書完成後では、以下の項目を確認します。

  • 必要な検査をしていない
  • 健側を測っていない
  • 別の主要運動を測定していない

という事実が分かっても、再度医療機関へ行く必要があるからです。特に骨折後の可動域障害では、いつ症状固定するのか、症状固定時にどの程度の可動域が残るのかが重要になります。したがって、以下の項目を確認します。

  • 保険会社から治療終了を打診された
  • 主治医から症状固定の話が出た
  • リハビリによる改善が止まってきた

という時点で、一度後遺障害申請に必要な資料を確認します。

診断書完成後に必ず確認する項目

診断書を受け取ったら、その場で封をして保険会社へ渡すのではなく、内容を確認します。例えば、以下の項目を確認します。

  • 氏名・生年月日
  • 事故日
  • 症状固定日
  • 傷病名
  • 手術名
  • 自覚症状
  • 画像所見
  • 可動域
  • 患側・健側
  • 左右
  • 自動・他動
  • 今後の見通し

です。ここで注意したいのは、内容に不満だから修正を求めるのではないということです。例えば、実際には右膝なのに左膝と記載、測定当日は70度だったのに170度と記載など、医学的事実と違う場合に確認します。

【実務チェックリスト】同行前に準備するもの

医療資料

  • 診断書
  • X線・CT・MRI
  • 手術記録
  • リハビリ記録
  • 過去の可動域測定値
  • 紹介状等

後遺障害関係

  • 後遺障害診断書の書式
  • 対象関節
  • 必要な主要運動
  • 患側・健側
  • 自動・他動の確認
  • 等級境界となる数値

本人の症状

  • 現在の痛み
  • 動かない方向
  • 仕事への支障
  • 家事への支障
  • 歩行・階段
  • 日常生活動作

この3種類を事前に整理すると、限られた診察時間でも確認事項が明確になります。

同行後は「診断書」だけでなく申請資料全体を見る

適切な後遺障害診断書が作成されても、それだけで適切な後遺障害認定が保証されるわけではありません。例えば、以下の項目を確認します。

  • CT画像が提出されていない
  • 事故直後のX線がない
  • 手術記録がない
  • 神経学的検査が不足

といった場合があります。後遺障害認定では、診断書だけでなく提出資料全体を確認する必要があります。つまり、同行は後遺障害申請の一部分です。

同行だけして終わりではなく、医学資料を整理し、被害者請求等によって必要な資料を提出するところまで考えることが重要です。

【同行の本当のメリット】「等級を上げる」より「取りこぼしを防ぐ」

病院同行について、「同行すると等級が上がる」という表現は正確ではありません。本来の意味は、存在する障害を、必要な方法で正確に記録してもらうことです。例えば本来12級7号相当の足関節制限があるのに、以下の項目を確認します。

  • 健側が未測定
  • 主要運動が不足
  • 自動・他動不明

という状態では、適切な評価が難しくなる可能性があります。同行によって得たいのは、有利な数字ではなく、正しい数字と正しい医学的説明です。結果として、それが本来認定されるべき等級の取りこぼしを防ぐことにつながります。

弁護士へ相談するタイミング

次のような場合には、後遺障害診断書作成前に相談を検討する意味があります。

  • 手術を伴う骨折である
  • 関節内骨折である
  • 人工関節・人工骨頭へ置換した
  • 可動域制限が明確に残っている
  • 可動域が8級・10級・12級の境界付近にある
  • 自動・他動の差が大きい
  • 神経麻痺がある
  • 過去の測定値と今回の値が大きく異なる
  • 医師が患側しか測定していない
  • 後遺障害診断書の作成方法に不安がある

特に、診断書を作成してから相談するより、作成前に確認する方が対応しやすいケースがあります。

まとめ:弁護士同行の目的は「有利な測定」ではなく「正確な測定」です

この記事のポイントを整理します。

  • 骨折後の関節機能障害では、可動域測定結果が8級・10級・12級等の後遺障害認定に影響する場合があります。
  • 関節可動域は、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の測定法に従って評価することが重要です。
  • 後遺障害認定では原則として健側と比較し、原則として他動可動域を使用します。
  • 麻痺や医学的に強い疼痛がある場合などには、自動可動域を参考とする例外があります。
  • 弁護士が病院へ同行する目的は、医師に特定等級を書いてもらうことではありません。
  • 同行によって、患側・健側、主要運動、自動・他動など必要な測定項目の漏れを防ぎやすくなります。
  • 可動域の数字だけでなく、骨折形態、画像、拘縮、神経障害など医学的原因との整合性も重要です。
  • 医師への質問では「10級にしてください」ではなく、「医学的にどのような状態か」を確認することが基本です。
  • すべての交通事故案件で同行が必要なわけではなく、等級境界、重傷骨折、人工関節、麻痺等のケースで特に検討する意味があります。
  • 同行の最大の目的は等級を上げることではなく、本来存在する障害を正確に記録し、適切な後遺障害評価につなげることです。

骨折後の後遺障害申請では、「実際に関節が動かない」という事実だけでは十分ではありません。その事実が、以下の項目を確認します。

  • どの関節について
  • どの運動方向で
  • 患側と健側が何度で
  • 他動なのか自動なのか
  • なぜ制限されているのか

という形で医学資料に残って初めて、後遺障害の評価につながります。診察室で行われる可動域測定は数分で終わることがあります。しかし、その数分間の結果が後遺障害診断書に残り、その後の等級認定や損害賠償へ長期間影響する可能性があります。

だからこそ、症状固定時の測定を「診察のついで」にしないことが重要です。

後遺障害診断書の可動域測定に不安がある方へ

交通事故による骨折後に、以下の項目を確認します。

  • 肩・肘・手首・股関節・膝・足首が事故前のように動かない
  • 人工関節へ置換した
  • 後遺障害8級・10級・12級の境界付近にある
  • 自動と他動の数値が大きく違う
  • 以前と可動域の数字が大きく変わっている
  • 主治医が後遺障害診断書に慣れているか分からない

という場合には、診断書作成前に一度測定内容を整理してください。当サイトでは、案件の内容に応じて、以下の項目を確認します。

  • 医学資料の事前確認
  • 必要な可動域測定項目の整理
  • 医師への可動域測定依頼資料の作成
  • 医療機関との面談・同行の検討
  • 後遺障害診断書完成後の確認
  • 後遺障害申請資料の整理

までを一連のサポートとして検討します。ただし、医療機関への同行・面談は医療機関側の了承が必要であり、すべての案件・医療機関で実施できるとは限りません。また、同行する弁護士や医療スタッフが医師の医学的判断へ介入したり、特定の等級が認定されるよう測定値を指定したりすることはありません。

目的はあくまで、本来ある障害を、正しい医学的評価と正確な資料によって審査へ届けることです。症状固定後になってから、

  • 「健側を測定していなかった」
  • 「本来必要な方向が抜けていた」
  • 「自動・他動が分からない」

と気付いても、事故当時からの治療経過を後から作り直すことはできません。後遺障害診断書を作成する前の段階で、必要に応じて交通事故・後遺障害に詳しい弁護士へ相談することが重要です。

※本記事は一般的な交通事故、骨折、関節可動域および後遺障害診断書について解説するものであり、個別の法律・医学的アドバイスを目的とするものではありません。病院同行・医師面談の可否は医療機関の方針や患者の状態等によって異なります。また、弁護士や医療スタッフが同行したことによって特定の後遺障害等級が認定されることを保証するものではありません。実際の測定・症状固定・治療方針は担当医の医学的判断、後遺障害申請・損害賠償については交通事故に詳しい弁護士等へご相談ください。